男の顔のキズ痕
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どこかで見た出だしと思いますが、皆さんは、今クールでは何かドラマを見ていますか?
私が今はまっているのは、MBS系列で深夜に放送している『深夜食堂』です。原作はコミックで、内容は、夜中から明け方まで開けている一膳めし屋、メニューは豚汁定食とビール、日本酒、焼酎のみ、あとはお客さんが食べたい物を注文して作れるものなら作るという営業スタイルのお店を舞台にした、お店に夜毎集うお客さんのちょっとした泣ける話で、各回お客さんが注文する食べ物がキーとなっています。タコさんウインナー、唐揚げ、アサリの酒蒸し、魚の煮凝りなどいかにも大衆食堂らしい食べ物にまつわる、昭和チックな心に沁みる話が癒されるドラマなんですよね。ドラマでは小林薫さんが店主を演じているのですが、店主の顔面には左まぶたから縦方向に大きな刀傷が残っています。そのキズが店主の強面な印象を与えていて、でも実は良い人というギャップをうまく演出してます。
このように顔面に残ったキズはそれだけで何かしらの印象を与えるものですが、今回は「男の顔のキズ痕」の話です。
労災事故や交通事故のために回復できない障害が残った場合、これを後遺障害とし、後遺障害に対する慰謝料や逸失利益の損害賠償を請求することができます。また、労災保険や自賠責保険では、残った障害内容に応じて等級を区分し、等級に応じて慰謝料や労働能力喪失率が決められています。
そして、事故で頭、顔、首などの外貌(日常的に人目に付く部分、外見)にやけどや傷跡が残った場合(以下「外貌醜状」といいます)も、後遺障害の対象とされています。今回は、労災保険については平成23年2月1日に、自賠責保険については平成23年5月2日に外貌醜状に関する等級の内容が変更されていますので、ご紹介したいと思います。
変更点は、これまで「男性」と「女性」とで等級を区別していたのを男女同一としたこと、これまで醜状を「著しい醜状を残すもの」と「醜状を残すもの」に区別していたのを新たに「相当程度の醜状を残すもの」を追加したことの2点です。
男女による取扱いの差は、とかく女性が男性よりも不利益に取り扱われるという形で争いになることが多いのですが、こと外貌醜状に関しては、女性の方が男性よりも有利に扱われていました。これに対し、性別による差別をなくし男女同一に変更したというのが今回の変更です。
この変更は、京都地方裁判所で外貌醜状について障害等級表が男女に差を設けていることが憲法14条の法の下の平等に反するとした判決(京都地判平成22年5月27日)が契機となりました。この事件は、勤務先会社で金属の溶解作業をしていた男性が誤って大やけどを負ったという労災事故に関し、労基署が当該男性の労災補償給付の申請に対して併合11級の後遺障害に該当すると認定したところ、これを不服として、当該男性が国に障害補償給付支給処分の取消を求めて争ったという事件です。
裁判所は、著しい外貌醜状の障害の男女差について、障害等級表では、もともと、年齢、職業、利き腕、知識、経験等の職業能力的条件は障害の重さの程度を決定する要素となっておらず、性別も職業能力的条件と質的に大きく異ならないこと、にもかかわらず、著しい外貌醜状の障害を職業能力的条件に関わるものとして、性別により7級と12級との大きな差が設けることは不合理であること、また、国勢調査のような統計的数値に基づく就労実態の差異や社会通念など性別による外貌醜状の障害等級に差を設けることとした策定理由などからもこのような差別的取扱を合理的に説明できないとし、このような差別的取扱が憲法14条1項に違反するものとして、当該男性に対する支給処分は違法であり取り消す旨判断いたしました。そして、国は控訴を断念し、平成22年6月10日にこの判決は確定しました。
これを受けて、厚生労働省内に「外ぼう障害に係る障害等級の見直しに関する専門検討会」が設置され、同検討会の報告書に基づき、前述の通り、外貌醜状についての後遺障害等級を変更することとし、併せて、国土交通省においても自賠責制度における障害等級表を変更することとしたのです。
なお、新たに「相当程度の醜状を残すもの」の障害等級を新設したのは、医療技術の進展から傷跡の程度を相当程度軽減できる障害を新たな障害等級として評価することによるものです。
労災保険を例にとると、具体的には、次の通り変更されています。
≪変更前≫
障害等級 | 後遺障害 |
---|---|
第7級 | 12 女性の外貌に著しい醜状を残すもの |
第9級 | − |
第12級 | 13 男性の外貌に著しい醜状を残すもの |
15 女性の外貌に醜状を残すもの | |
第14級 | 10 男性の外貌に醜状を残すもの |
≪変更後≫
障害等級 | 後遺障害 |
---|---|
第7級 | 12 外貌に著しい醜状を残すもの |
第9級 | 11の2 外貌に相当程度の醜状を残すもの |
第12級 | 13 − |
14 外貌に醜状を残すもの | |
第14級 | 10 − |
また、外貌障害についての障害認定基準として、それぞれ次の通り基準が設けられています。
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障害等級第7級の12「外貌に著しい醜状を残すもの
原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものをいう
(1) 頭部にあっては、てのひら大(指の部分は含まない)以上の瘢痕又は頭蓋骨のてのひら大以上の欠損
(2) 顔面部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕又は10円銅貨大以上の組織陥没
(3) 頚部にあっては、てのひら大以上の瘢痕
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障害等級第9級の11の2「外貌に相当程度の醜状を残すもの」
原則として、顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいう
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障害等級第12級の14「外貌の単なる醜状を残すもの」
原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものをいう
(1) 頭部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
(2) 顔面部にあっては、10円銅貨以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕
(3) 頚部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕