ヒヤリハット対策
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最近、企業の危機管理の講習会などでよく聞かれる「ヒヤリハット」というのは、文字どおり「ヒヤリとした」あるいは「ハッとした」ということで、重大な事故には至っていないものの、一歩間違ったら重大事故につながっていたというような事象を指します。
日本では、主に労働災害の起こりやすい職場であるとか、病院などの医療現場で議論されてきたもので、例えば工事現場で機材の電源をつけっ放しにしていたとか、病院で間違ったお薬を出してしまったけれども、その患者さんが飲むのを忘れていて大事に至らなかったというような場合がよく例に挙げられます。
ヒヤリハットの理論的な側面としては、ハインリッヒの法則というのがあって、アメリカの損害保険会社に勤めていたハインリッヒさんが1929年に約5,000件の労働災害を統計学的に調べまして、「1:29:300」という法則を発見しました。これは、1件の重大事故の背後に29件の軽微な事故があって、さらにその背後に300件のヒヤリハットがあるという論文の内容です。
民間企業では、ヒヤリハット検討会、分析事例集(データベース)、活用マニュアルなど、色々な議論がなされていますが、どこも事例の収集には苦労しているようです。職場のQCサークルなどでよく見られる光景ですが、最初はいくつか事例が報告されるものの、回数を経るに従ってネタ切れになり、いつの間にか自然消滅・・・といった例もあるようです。それに、自分の例を挙げると、人事考課で不利に取り扱われるのではないかとか心配ですし、かと言って他人の例を挙げると何となく他人のアラ探しをしているような気分にもなりますし、なかなか難しいところです。
この点は法律的な問題というよりも、労務管理の次元の問題なのですが、一つの視点としては、ヒヤリハット報告をするという態度自体は人事考課上、その社員の方にプラスに働くのではないかということになろうかと思います。と言うのは、やはりミスをする・しないということよりも、自分や職場全体の業務の中味をたえず振り返って、修正点はないか、改善点はないかと検証する前向きな態度をプラスに評価すべきではないかということです。
もう一つの視点としては、最近、企業不祥事の際の内部告発に対する報復人事をどう防ぐかという点が大きな問題となっているのですが、ヒヤリハット申告についても、レベルは違いますが不利益取扱いを行わないような体制作りが必要ではないかということです。内部告発もヒヤリハット申告も、企業全体のリスク情報を把握するための重要な仕組みですので、本来、企業の上層部が頭を下げて「どうぞ教えてください」とお願いするスタンスで臨まないとうまく行きません。
ひと昔前は、ヒヤリハット対策なるものは、企業の暗部というか、なかなか表沙汰にはしたくない秘密的な要素が強かったのですが、最近では、造船会社や化学メーカーなど、むしろ積極的にヒヤリハット事例を自社のホームページに載せて、安全対策をアピールしているところもありますし、そのような取り組みによって企業価値が判断される時代が来るのかもしれません。