トレードマーク
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今年惜しくもリーグ優勝を逃した阪神タイガースのトレードマークと言えば、縦じまのユニフォームと一糸乱れぬ応援風景ですが、「トレードマーク」の本当の意味は「商標」です。商品の出所(生産者・販売者など)を顧客に認識させるための標章(文字・図形・記号・立体的形状など)のことで、役務(サービス)の出所を表示する「サービスマーク」と区別して用いられる場合もあります。ちなみに、当事務所の名前の前に「L」が3つ重なっているマークも、サービスマークの一種です。
企業とすれば、熾烈なシェア争いを勝ち抜いて、消費者から一目置かれる存在になるのはありがたいことなのですが、あまりに有名になりすぎて、一般名称(ジェネリック・ターム)になってしまうことがあります。そうなると、商品の出所を示すという商標本来の機能がなくなってしまい、他人がそれを使っても商標権侵害とは言えなくなりますし、せっかくお金をかけてネーミングし、商標登録をして宣伝した労力がボツになってしまいます。CMで、「□□と言えば△△」(例:ビールと言えばキリン)などの広告戦略をとっていると、いつの間にか「ビール=キリン」ともなりかねません。
特定の企業の商標が一般名称になってしまった有名な例として、ホッチキス、エスカレーター、ドライアイス、ナイロン、ホームシアターなどがあります。また、インターネット検索のGoogleでは、すでに「ググる」という一般動詞に転化してしまっています。最近でも、クリープ、ポッキー、ウォークマン、バンドエイド、エレクトーンなどは、かなり危険な領域に入りつつあります。昔は、「紅茶に牛乳加工粉末を入れて、棒状甘味菓子を食べて携帯音楽再生装置を聞きながら作業してたら、用紙綴じ合わせ金具用品で手を切ってしまって、指に粘着性簡易包帯を巻いているので、電子鍵盤楽器が弾けないのです。」とか言って、よく舌を噛んだものですが、今ではそんな会話は逆に意味不明なものとなっています。
企業としては、せっかくブランド名を広げても、広がりすぎて一般名称に転化しまうのは避けなくてはいけません。そこで、商標の右下に(TM)マーク(Trademark)や(R)マーク(Registered Trademark=登録商標)を付けて消費者の注意を喚起したり、「〇〇は◇◇社の登録商標です」と明記して、一般名称化を防止しようとしたりします。ただし、まだ商標登録をしていないのに商標登録表示をしたり、これと紛らわしい表示を付することは禁止されていますので(商標法74条・80条)、十分な注意が必要です。
ある意味でぜいたくな悩みなのかもしれませんが、有名になりすぎるのも、良し悪しですね。