これから裁判員になる可能性のある皆さんへ
執筆者
先日、裁判員裁判を経験しましたので、そのご報告を兼ねて、今後皆さんが裁判員に選任されるときの心構え等をお話したいと思います。
まず、皆さんが、裁判員に選ばれる可能性が現実な話になるのは、裁判所に出頭する年の前年の秋ころまでに、来年の裁判員候補者に選ばれましたという通知が裁判所から来てからです。この時、調査票に都合の悪い場合はその理由や、この時期は無理などと言ったアンケートに答えて回答します。
次は、裁判期日のだいたい40日程度前に、裁判所からこの日に出頭するように通知がきます。この時も、その日が都合が悪いならその理由を書く等して回答します。通常、都合が悪い理由がそれなりに正当であれば、裁判所もあまり厳格に考えず、辞退を認めているようです。
いよいよ、当日、裁判の日に、午前9時30分に裁判所に出頭します。我々弁護士や検察官は、事前に当日呼び出される裁判員候補者の氏名を裁判所から伝え聞いていますので、知人などがいる場合は、将来的に不選任にしてもらうなどの方法を取ることになりますが、今回私の場合は、特別な関係の方は名前だけみればいなかったので、ほっとしました。我々の事件の場合は、約40名呼び出されていました。
当日出頭した裁判員候補者は、裁判所で事件の概要を聞いて、さらに質問票(アンケート)に答えます。被告人や被害者と特別な関係がないか、新聞やTVに左右されることなく証拠のみで判断できるか、公平な判断ができない事情はあるか、裁判の4日間出頭できるか、等です。我々弁護士と検察官は、その質問票を見て、後に不選任とする裁判員を検討します。通常は、この質問に変に細かく熱心に答えて、普通ではないなあと思われれば、弁護士としても裁判員候補者から外れてもらおうと思いますので、回答の仕方を考えて下さい。そして、最終的に弁護士も検察官も、4名(補充裁判員がいるときなど5名)を、理由なき不選任と言って、理由を言わず裁判員候補者から外すことができます。その時は、質問に対する回答、態度、服装なども考慮に入れて考えます。弁護士としては、被告人を厳しく処罰する方向に流れる人は、当然はずそうとするわけです。又、裁判員候補者自ら、明日緊急の用があり、出席できない等の理由で辞退の申出等があり、それを認めるか否か判断されますが、裁判官は、比較的本人の希望を入れて、容易に辞退を認めている印象です。
こうやって、裁判員候補者から、何人かは辞退を認められ、何人からは検察官や弁護人の意見ではずれてもらって、残った裁判員候補者から抽選で6名の裁判員と2名の補充裁判員を決めます。我々の事件では、男女3名づつ、しかも年齢層も若年から中年、年配の方まで、うまく幅広く選ばれました。
そして、選ばれなかった裁判員候補者は、お昼前には終了し帰宅を許され、選ばれた裁判員は、その日の午後から私の事件では4日間、裁判に裁判員として立ち会うのです(審理に3日、評議に1日)。法廷では、3人の裁判官の両側に3人づつ座ります。まさに、裁判官と同じ、少し高い位置にある法壇に座りますので、その景色は我々弁護士も修習生のときに体験した以外は体験しない、景色です。どんな思いなのでしょうか。我々の事件では、裁判員もかなり真剣に審理に臨んでくれて、主張に熱心に耳を傾けてくれたと思います。我々も、今まで、職業裁判官なら、あまり言っても同じかなあと思うことも、素人の裁判員なら分かってくれるかもしれないと思い、今までにない気持ちで、新鮮に事件に取り組むことができました。その効果もあり、満足行く結果(判決)となりました。
裁判員裁判は、裁判官、検察官、弁護人、裁判員、もちろん被告人も含め、すべての関係者にとって通常の裁判に比較すると、数倍以上の労力が必要な制度です。これで、市民の良識が裁判に反映されるという目的が達成されれば、うれしいことですが、そうでなければ、無駄な労力になってしまいます。皆さんにも一度は経験して頂きたいです。きっと、人生変わると思います。
そして今後、法曹も素人の裁判員も協力して、より良い制度に育てていく必要があると思います。私も初めての経験で何かと気を遣い疲れましたが、緊張の充実した4日間で、裁判を終えてすがすがしい気分です。