取引基本契約のチェックポイント
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私達の日常の業務の中において、顧問先の皆様から各種の契約書チェックのご相談を受けることがよくありますが、その中でも、比較的頻度の高い「取引基本契約」について、今回はお話をしたいと思います。
ご存じのとおり、「取引基本契約」は、企業において反復継続して行われる商取引、特に動産取引に関して、共通に適用される事項について予め定めたものであり、その契約条項も多岐にわたります(ちなみに、「取引基本契約書の作成と審査の実務(第2版)」(滝川宣信著・民事法研究会)10頁では、43個もの項目が契約条項として挙げられています。)。
商取引の内容が様々である以上、取引内容に応じて、取引基本契約の内容も異なってきますが、私が、一般的な商品売買における取引基本契約書のチェックのご相談を受けるときには、特に、以下の各条項の内容については注意を払います。
- 個別契約の締結
発注日、商品名、数量、引渡期日、引渡場所、価格等の個別契約の内容のほか、個別契約の成立時期(発注書による発注と承諾、承諾のない場合の扱い等)が明確になっているか。 - 納入、検収
納入が遅れた場合の措置(通知、損害賠償等)、検収が行われる場合の手続(通知義務、通知がない場合の扱い等)のほか、不合格品があった場合の措置(代替品、減額、損害賠償等)はどのように定められているか。 - 所有権・危険負担の移転
所有権および危険負担(当事者の責によらない事由により目的物が滅失・毀損した場合に、売主が代金を請求できるか)の移転時期については、売主にとってみれば、所有権の移転は遅い時期(代金完済時)、危険負担の移転は早い時期(引渡時)にした方が有利(買主にとっては逆)になることから、これらの時期がどのように定められているか。 - 瑕疵担保
商法上は6か月の期間制限(商法526条)がありますが、任意規定であることから、瑕疵担保責任に関する条項があるか、条項がある場合に、補償期間や瑕疵の補修・代替品納入・損害賠償(賠償額の限定の有無)等の補償内容がどのように定められているか。 - 製造物責任
製造物責任に関する条項があるか、条項がある場合に、特に、買主が、売主から材料や部品を購入し、完成品にして消費者に販売しているような場合には、損害賠償の範囲、求償の手続、クレームに対する対応等がどのように定められているか。 - 契約の解除
解除できる当事者が一方に限定されていないか、無催告解除か催告解除かという形式的な面だけでなく、不明確・不公平な解除事由がないか。 - 損害賠償
契約解除に基づく損害賠償(上記 6.)のほか、瑕疵担保(上記 4.)、製造物責任(上記 5.)等における損害賠償の範囲(売主側からは代金総額を上限にするなど、買主側からは間接損害も含めるなど)がどのように定められているか。 - 有効期間(中途解約)
(特に初めての取引を行う場合で相手方の信用度が不明な場合)有効期間、自動更新条項の有無などのほか、中途解約条項の内容がどのように定められているか。
顧問先の皆様が取引基本契約書をチェックされる場合にも、是非、上記の諸点に注意してください。その際には、個別契約の成立から終了まで(商品の発注時から、納入、代金の支払時まで)の取引の過程を具体的にイメージしながら、その過程において発生しうるリスクについて対処ができているかを確認することが有用だと思います。
そして、「ちょっとこれは我が社に不利では」とか「意味がよく分からない」と思われたら、是非ご相談いただければと思います。
追記:上記の「取引基本契約書の作成と実務」は、取引基本契約における各契約条項について、具体的かつ詳細に検討している良書ですので、ご参考にされることをお勧めします。