将来債権譲渡(担保)契約の債権発生期間
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- 将来債権譲渡(担保)契約を締結する際、譲渡契約の全部または一部無効となることのない債権発生期間は何年かという問題があります。将来債権譲渡契約とは、譲渡人が将来有するであろう将来債権を譲受人に譲渡する契約であり、将来債権譲渡担保契約とは、債権者が債務者に対して有する債権等を被担保債権として、債務者が第三債務者に対して将来有するであろう将来債権を一括して譲渡担保にとるという契約です。前記のとおり、譲渡される(譲渡担保が設定される)債権が将来有するであろう将来債権となっていることから、「将来何年何か月間分まで可能なのか」という問題が生じることとなります。
- 将来債権の譲渡ということであれば、「動産及び債権の譲渡に関する民法の特例等に関する法律」に規定があるようにも思われるところですが、同法には、登記の存続期間を定めた規定(原則10年)は存在するものの、「将来何年何か月間分まで可能なのか」という点について、正面から規定した条項は、存在しません。また、その他の法律でも、かかる問題を規律するものは存在しておりません。
- 判例については、診療報酬債権の判例(最一判平成11・1・29)(以下「本件判例」といいます。)ではあるものの、8年3か月の将来債権の譲渡が有効とされたものがあります。では、8年3か月までであれば、将来債権の譲渡(担保)契約は有効かというと、そのように判断することができないのが実情です。本件判例は、「契約締結時における譲渡人の資産状況、右当時における譲渡人の営業等の推移に関する見込み、契約内容、契約が締結された経緯等を総合的に考慮し、将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約について、右期間の長さ等の契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らして相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであると見られるなどの特段の事情の認められる場合には、右契約は公序良俗に反するなどとして、その効力の全部又は一部が否定されることがある」
と判示しており、決して、「8年3か月までであれば、将来債権の譲渡(担保)契約は有効」としているわけではありませんので、この点、注意が必要です。
- 各種の文献でもこの問題について触れられており、「5年を上限」(池辺吉博「債権譲渡特例法と商社の担保実務」森井秀雄ほか『〔新訂第二版 債権譲渡特例法の実務』178頁(商事法務、2002))、
「控えめにみて、5年程度」(升田純「将来債権に関する最高裁判決と実務のガイドライン」森井秀雄ほか『〔新訂第二版 債権譲渡特例法の実務』240頁(商事法務、2002))、
「5年程度とするのが通例」(経営法友会マニュアル等作成委員会編『動産・債権譲渡担保マニュアル』24頁(商事法務、2007))「10年くらいまでの中長期」(鎌田薫編『債権・動産・知財担保利用の実務』188頁〔渡辺隆生・内海順太〕(新日本法規、2008)ただし、診療報酬債権に限定する趣旨か)、 等とするものがあります。
- この点、先ほど掲げた各種文献等の影響からか、特に5年間という年限が一人歩きしているように見受けられますが、先ほど掲げた各種文献にも記載があるとおり、本件判例が掲げた種々の要素からの総合的実務的判断により決せられるものと考えられます。検討する時間的余裕がないのであれば、上記3記載の現状からして、5年間を選択するのが無難であると考えますが、5年であれば全部又は一部無効になることはないというものでもなく、例えば、譲渡人の資産が劣化し、譲渡人の営業が著しく悪化しているときに、取引関係の優位性を利用して、譲渡人が将来有することとなる一切の売掛金を譲渡担保として取得した場合には、仮に5年であったとしても、全部または一部無効になる可能性は大きいものと思料します。
結局、実務的には、本件判例の諸要素を考慮しつつ、将来何年何か月間分まで取得するのかという点も含め、ケースバイケースで判断せざるを得ないものと考えます。
- なお、民法(債権法)改正検討委員会による「債権法改正の基本方針」においても、かかる将来債権譲渡の限界についての規定はなく、前記のような予測可能性に欠ける状態は、今後も継続する可能性が高いといえますので、前記委員会の議論の状況、今後の判例の分析等が重要となると考えます。