内部通報制度の設計と運用
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平成18年5月に会社法が施行され、いわゆる内部統制システムの整備義務が法文上も明らかになり、同じ年の4月に公益通報者保護法が施行されたこともあり、この5年の間に、内部通報制度を導入する企業は増加しており、当事務所でも10程度の企業・団体の外部窓口を受託しています。
顧問先の皆様に外部窓口を検討いただく中で、(1) 顧問法律事務所と外部窓口法律事務所は分けるべきかという点と、(2) 匿名での通報を可とすべきかという点についてお尋ねをいただきます。
(1) 1点目については、一般に、通報者と会社との利害が対立することがあるから、顧問法律事務所と外部窓口法律事務所は分けることが好ましい、と言われています。確かに、ケースによっては通報者と会社の利害が対立し、通報を受けた顧問法律事務所が会社の代理人等として活動できない場合があるというデメリットは否定できず、また、利害対立がないとしても、外部窓口は、通報者の保護も重視しますので、外部窓口=通報者寄りというイメージにつながるかもしれません。
しかし、外部窓口は、通報者の権利実現のための何らかの積極的助言をおこなうことはありません。実際に通報を受けていますと、通報内容自体が通報者と当該会社との利害対立を孕むものであっても、外部窓口としての業務は、本質的には通報・情報の仲介に過ぎず、中立的なものです(ただし、利害対立が現実化した場合のデメリットは上記のとおりです。)。
もちろん、内部通報を機能させるために、情報の整理等は行いますので、「全く単純な仲介」とは言えず、「顧問法律事務所と外部窓口法律事務所が同じだと、所詮外部窓口も会社寄りだと見られる恐れがあるから、それぞれ別の事務所にする」という判断もあり得ますが、外部窓口の上記のような実態も踏まえていただければと思います。
(2) 2点目については、通報者が、匿名希望で連絡先も明かしたくない、という場合、基本的に通報者からの一方通行の連絡となり、特に、会社内部の実情に必ずしも詳しくない外部窓口は、適確な事情聴取等を充分に行えない場合があります。また、匿名では内部通報が悪用されるというリスクが無いとは言えません。
しかし、内部通報とりわけその外部窓口は、会社内部における通常の情報伝達ルートが何らかの理由で機能しない非常時の情報伝達ルートであり、不祥事の拡大や、予期せぬ会社外への通報・公表に対する、最後の砦とも言えます。
このように、匿名での通報を受け付けない場合のリスクは大きく、少なくとも「内部窓口は匿名可。外部窓口は原則として匿名不可だが例外的に可」程度まで門戸は広げておくべきでしょう。匿名の場合に充分な調査が行えないことは通報者に説明し、それでも匿名とするか否の判断は最終的には通報者に委ね、内部通報の悪用については、通報内容を踏まえて調査方法を吟味することで解消すべき問題だと思います。
(3) 内部通報は、以前は、密告制度というイメージ等から敬遠されてきた歴史がありますが、現在は、「会社を健全に守っていく」ための重要なツールとして認識されています。顧問先の皆様におかれましても、内部通報や内部統制システム全般について、制度設計や運用に疑問等がございましたら、何なりとご相談ください。