事業を第三者に任せる方法と注意点
執筆者
事業を第三者に任せる方法として最も端的な方法は、事業の所有権を移転させる「事業譲渡」(会社法第467条第1項第1号等)ですが、事業の所有権を移転させない方法として、同項第4号に「事業の賃貸」とか「経営の委任」といった文言があります。今回はこの事業賃貸借や経営委任についてご説明します。
- まず、「事業」とは、物的施設だけでなく従業員等の人的要素やノウハウも含む概念で、会社法施行以前は、「営業」と呼称されていました。そして、事業賃貸借や経営委任の区別の上で、(1)誰の名義で事業を行うか、(2)誰に損益が帰属するか、が重要な要素となりますが、「Aに損益が帰属する」ということを「Aの計算で行う」と言います。
- さて、事業の賃貸借とは、事業の所有者がその事業を他人に賃貸する契約をいい、事業活動は、(1)賃借人名義で、(2)賃借人の計算で行われます。
事業の所有者は、事業賃借人から「賃料」という形で支払いを受けます。
- 次に、経営委任とは、事業の所有者がその事業の経営を他人に委託する契約をいい、事業活動は、(1)事業の所有者(委任者)名義で行われます。この点が、事業の賃貸借と異なる点です。そして、経営委任は、損益の帰属主体によって、さらに「狭義の経営委任」と「経営管理」とに2種類に分かれます。
(a) 事業活動が、(1)事業の所有者(委任者)名義で、(2)受任者の計算で行われる場合を「狭義の経営委任」といいます。対外的には事業の所有者名義のままで、対内的には受任者の裁量と計算で事業が行われる場合です。そして、事業の所有者は、受任者から「売上or収益の何%」という形で支払を受けます。
(b) 事業活動が、(1)事業の所有者(委任者)名義で、(2)事業の所有者(委任者)の計算で行われる場合を「経営管理」といいます。対外的には事業の所有者名義のままで、対内的にも事業の所有者の裁量と計算で事業が行われる場合です。受任者は単に「事務処理」を委託し、一定の報酬を受け取るのみです。
- 以上のように、事業の所有権を移転させずに事業を第三者に任せる方法は、(1)名義と(2)計算によって、3種類に分類することができますが、いずれについても、株式会社がこれらを行うには、株主総会の特別決議(会社法第467条第1項第4号)が必要な場合があること、また、「狭義の経営委任」の場合は、名義だけを使わせているとはいっても、名板貸人としての責任(商法第14条)を負う可能性があることに注意する必要があります。
また、賃借店舗でおこなっている事業を第三者に委ねる場合、店舗の家主の承諾を得ずに、事業の賃貸借や狭義の経営委任によって、実質的な事業主体が変更されると、賃借店舗の「転貸」となり、店舗賃貸借契約の解除事由となり得ます。逆に、店舗の家主の承諾を得ることができない場合でも、純然たる経営管理、つまり事業の所有者(委託者)の名義において事業活動を行い、実態としても事業の所有者(委託者)に経営指揮権があると言うことができれば、賃借店舗の「転貸」とはなりません。
このように、どのような形式をとるか、どのような実質を備えるべきかについて、微妙なケースが多いと思われますので、判断に迷われましたら、何なりと当事務所までご相談ください。