まねきTV事件最高裁判決について
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皆さんは、ロケーションフリーというAV機器をご存知でしょうか。テレビアンテナにつないだベースステーションと呼ばれる装置から、専用モニターやPC、PSP等の端末機器に、リアルタイムで映像を送信することができるというソニーが販売する商品です。ロケーションフリーを利用すれば、海外に出張中の人でも、インターネットを介して日本のテレビ番組をリアルタイムで見ることが可能となります。海外に居る利用者は、手元にあるPC等の端末から、日本の自宅に置いてあるベースステーションに特定のテレビ放送を送信するよう指示します。すると、ベースステーションがその放送をデジタルデータ化し、インターネット回線を通じて、利用者にデジタルデータ化された放送を送信してくれるのです。
ただし、ロケーションフリーを購入しても、日本にベースステーションを置いておく場所がなければ、そもそも、日本の放送を受信することができません。したがって、海外に居住しており、日本に自宅がないという人はロケーションフリーを利用できないということになってしまいます。
そこで、海外に居住しているけれども、日本のテレビを見たい、という人のために、利用者に代わってベースステーションを預り、海外にいる利用者に向けて日本の番組を配信するサービスを提供する会社が現れました。これが、タイトルにもある「まねきTV」というサービス(以下「本件サービス」といいます。)です。本件サービスを利用すれば、誰でも、入会金3万1,500円、月額使用料5,040円を支払うだけで、海外に居ながら、日本のテレビ番組を視聴することができるようになります。
しかし、番組を放送するテレビ局は、本件サービスを快く思いませんでした。そして、本件サービスを提供する会社に対し、本件サービスの提供の停止及び本件サービスによりテレビ局が被った損害の賠償を求める訴訟を提起したのです。
この裁判の一審、二審では、本件サービスは、テレビ局の著作権等を侵害しないとの判断が下されました。本件でテレビ局が主張した著作権及び著作者隣接権は、公衆送信権(著作権法23条1項)と送信可能化権(同法99条の2)です。公衆送信権や送信可能化権というのは、イメージがしづらいかもしれませんが、著作権法によると、公衆送信とは、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。)を行う権利であり、送信可能化権とは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆装置に情報を入力する等の方法により、自動公衆送信し得るようにする権利であると定められています。
そのため、この裁判では、まねきTVの行うサービスが上記の定義に含まれる「自動公衆送信」に該当するかどうかが問題となりました。
二審の知財高裁は、ベースステーションが行いうる送信は、当該ベースステーションから特定単一の専用モニター又はPCに対するもののみであり、ベースステーションはいわば「1対1」の送信を行う機能しか有していないものであるから、ベースステーションが、公衆(不特定又は特定多数の者)によって直接受信され得る無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有する装置であるということはできないとして、テレビ局の主張を認めませんでした。しかし、最高裁は、概ね次のように判示して、知財高裁の判決を破棄し、本件を知財高裁に差し戻しました(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110118164443.pdf)。
・被上告人(まねきTV)は、利用者から預ったベースステーションに対し、アンテナで受信した電波を分配機を介するなどして継続的に入力されるように設定し、ベースステーションを事務所に設置して管理しているのだから、利用者がベースステーションを所有しているとしても、ベースステーションに入力しているのは被上告人(まねきTV)であり、ベースステーションを用いて行われる送信を行っている主体は、被上告人(まねきTV)とみるのが相当である。
・利用者は誰でも被上告人(まねきTV)と契約してサービスを利用できるのであって、被上告人(まねきTV)からみて利用者は不特定の者として「公衆」に当たるから、ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり、ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる。
・アンテナからベースステーションまでの送信、ベースステーションから利用者の端末機器までの送信のいずれについても、送信の主体は被上告人(まねきTV)であるというべきであるから、テレビアンテナから利用者の端末機器にテレビ番組を送信することは、公衆送信に当たる。
上記の判決内容をわかりやすく言うと(ただし正確ではありません。)、「ベースステーションに「1対1」の送信を行う機能しかなかったとしても、まねきTVは、利用者から預ったベースステーションを一括して設置、管理しているのだから、送信の主体は、まねきTVである。そして、誰でもまねきTVとの間で、本件サービスの利用契約を締結することができるのであるから、まねきTVからみて、本件サービスによるテレビ番組の配信は不特定の者(公衆)に対して行われているといえる。したがって、まねきTVが行うベースステーションを用いた送信は、自動公衆送信に該当する。」ということになります。
ところで、最高裁がまねきTVが自動公衆送信の主体であると判示しているように、本件では、誰を著作物の利用主体とみるべきかという点も問題となりました。
この点に関する先例としては、クラブキャッツアイ事件最高裁判決(最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁、判時1270号34頁)があります。事案は、カラオケスナックが、JASRACの許諾を得ずに、ホステスや客らにカラオケを歌わせていたところ、JASRACから演奏権の侵害であるとして訴えられたというものです。このような事案について、最高裁は、著作物の利用主体性は、利用行為に対する支配管理、利益の帰属という2つの要素を考慮すべきとの基準を示したうえで、カラオケスナックが演奏の主体であると判断しました。
この基準は、俗に「カラオケ法理」と呼ばれており、その後の裁判例の多くが、同種事案について、この最高裁判決の判断枠組みを踏襲していますが、本件の最高裁判決は、まねきTVが自動公衆送信の主体であると認定しているものの、クラブキャッツアイ事件最高裁判決を引用していないことから、利用主体性については、カラオケ法理に準拠せずに判断したものと考えられます。その理由は明らかではありませんが、インターネットを利用した本件サービスとスナックでのカラオケとは事案が違うと考えたからではないかと思われます。
この種のハウジングサービスが著作権侵害に問われた事件としては、選撮見録事件、録画ネット事件、ロクラク事件等がありますが、ロクラク事件を除き、全ての事件で、サービス業者側が敗訴しています。残されたロクラク事件についても、近々判決が出るとのことですが、本判決の論理からすると、ロクラク事件についても、本件と同様、サービス業者側敗訴という結論になる可能性が高いものと思われます。
ご興味のある方は、ロクラク事件裁判についても是非注目しておいてください。