兼任取締役等の利益相反取引
執筆者
- 民法上、自己契約(Aが、Bの代理人としてAと取引する場合)、双方代理(Aが、BおよびCの代理人として取引する場合)については、本人と代理人との利害が衝突しているため、公正を図るべく、代理権が制限されています(民法第108条)。これと共通の理念に基づくものとして、親権者と子の利益相反行為(民法第826条)、後見人の利益相反行為(民法第860条)等が定められています。いずれも代理行為は無効となります。また、法人の行為についても、やはり同様の理念から、法人と当該法人の代表者の利益が相反する行為については、代表権が制限されています(宗教法人法第21条第1項、私立学校法第40条の4等)。株式会社も同様です。株式会社については、「取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき」(直接取引・会社法第356条第1項2号)の他に、「株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき」(間接取引・会社法第356条第1項2号)も規定されています。
- もちろん、法人等において、代表取締役等の代表者が、直接相手方となって法人等と取引をする場合には、利益相反関係が明確ですが、よくあると思われる事例として、例えば、株式会社について、B社とC社との間の取引で、B社の取締役Aが、C社の取締役を兼ねているような兼任取締役の場合(1) AがB社、C社を代表している場合→B社およびC社いずれにおいても株主総会決議必要となります。
(2) AがB社を代表しているが、C社を代表する者がAでない場合
→�@まず、B社においては株主総会決議は原則として不要ですが、C社においては株主総会決議が必要となります。
�Aただし、B社においては、「その他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する行為」(間接取引)として、利益相反取引に該当し、株主総会決議が必要となる可能性があります。
�Bまた、そもそも、Aが事実上C社の経営を支配しているような場合、C社についても自己取引規制に該当し、株主総会決議が必要となる可能性があります。
なお、上記の場合、C社においては、Aが利益相反取引に関与しないことを示す方法として、その旨の取締役会決議を作成する処理がなされているようです(B社およびC社双方において株主総会決議を回避するためには、双方において、上記取締役会決議が必要となると思われます。)。
(3) AがB社、C社を代表しない場合→この場合は、両社いずれにおいても決議は不要です。
- 利益相反取引については、論点が多岐にわたり、先例、判例等も数多くあります。兼任取締役に限らず、疑いある行為については、事前に一度ご相談いただければと思います。