雇用から業務委託へのシフト
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皆様の中には、残業代や社会保険料等の支払いにかかるコストを削減するために、または、一時的な人員不足に対応するために、雇用契約から業務委託契約へのシフトを検討されている方もいらっしゃることと思います。そこで、今回は、業務委託契約を用いる際のメリット、留意点などについてご説明させていただきます。
- 業務委託契約のメリット業務委託契約を用いた場合、委託を受けた作業員は、個人事業主とみなされるので、基本的には、労働基準法など労働者を保護するための法律は適用さません。すなわち、労働基準法の適用がある場合には、たとえば、不当解雇の禁止、最低賃金の保障、時間外労働に対する割増賃金の支払い、労働時間と休憩の規制、前借り金との相殺の禁止などの制約が使用者に対して課されます。しかし、業務委託を用いた場合には、このような制約はありません。また、業務委託を用いた場合には、雇用の場合であれば使用者が負担する社会保険料や福利厚生の提供にかかるコストを削減することも可能になります。
- 業務委託契約の留意点しかし、業務委託を用いる場合に、ご注意いただきたい点がございます。それは、業務委託契約という形式をとっていたとしても、実質的な契約内容が雇用契約である場合には、上記労働基準法等の制約が使用者に対して課されてしまうということです。たとえば、使用者としては作業員との契約は業務委託契約であると考えていたら、後日、作業員が、実はこの契約は、その内容から考えると雇用契約であったと主張して、未払い残業代等をさかのぼって請求してくる場合などが考えられます。
- 業務委託契約と雇用契約を分ける基準そこで、業務委託契約を用いる場合には、上記のような事態を避けるために、業務委託契約と雇用契約とを分けるメルクマールを理解したうえで、実質的な契約内容が業務委託契約と認められるように配慮する必要があります。
では、業務委託契約と雇用契約とを分ける基準とはいかなるものかといいますと、それは使用者と作業員との間に「使用従属関係が認められるか否か」です。使用者と作業員との間に使用従属関係があると認められる場合には、雇用契約と判断されます。そして、この使用従属関係を判断するにあたってのメルクマールが以下の(1)ないし(6)に挙げたものとなります。
(1) 仕事の依頼、業務従事の指示に対する許否の自由の有無
使用者からの仕事の依頼や業務についての指示があった場合に、作業員に断る自由があるかどうかということです。断る自由があれば、業務委託となります。
(2) 業務遂行上の指揮監督の有無
業務の内容及び遂行方法について使用者の具体的な指揮命令を受けているかどうか、です。使用者から具体的な指揮命令を受けていれば、雇用となります。
(3) 時間的場所的拘束性の有無
勤務時間及び勤務場所が指定され、管理されているかということです。これらが拘束されていれば、雇用となります。
(4) 代替性の有無
本人に代わって他の者が労務を提供することや、本人の判断で補助者を使用することが可能かどうかということです。この代替性がなければ、雇用となります。
(5) 報酬が労務の対価とされているかどうか
報酬が、使用者の指揮監督下での労働の対価として支払われたものであるかということです。超過勤務手当が設けられているなど、労務の対価として報酬が支払われる場合、雇用と考えられます。
(6) 業務用具の負担関係
パソコンなどの業務で使う機械の費用負担をどちらがしているかということです。使用者がこの費用を負担していれば、雇用となります
これら(1)ないし(6)のメルクマールにより使用従属関係があるかどうかが判断されます。ただし、これら基準のうち、1つに該当するからといって、ただちに使用従属関係が認められるわけではなく、実際の業務の流れなどを考慮しながら、総合的に判断することが必要です。なお、契約書に、「業務委託契約書」というタイトルが付されていても、これらの基準に基づいて、実質的な契約内容が雇用契約であると認められれば、その契約は雇用契約と判断されてしまいますので、ご注意ください。
以上のように、業務委託契約には大きなメリットがある一方で、ご注意いただきたい点もございます。コスト削減や人員調整のために業務委託契約を活用することをご検討されている方、また、すでに業務委託契約を活用されている方におかれましても、何か不安な点がございましたら、お気軽に当事務所までご相談いただければ幸いです。