雇止めに際しての対応
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- 雇止め期間の定めある雇用契約については、雇用契約の期間が満了すれば、労働契約は当然に終了するのが民法上の原則ですが、期間雇用契約の更新拒否、すなわち雇止めについては、場合によっては不適法とされることもあるので、その点の注意が必要です。
- 解雇権濫用法理
1) 判例においては、期間雇用契約が以下のように評価できる場合には、解雇権濫用法理が類推適用されるとされています。
(1) 期間雇用契約の更新がなされ、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたと評価できる場合(最判昭和49.7.22「東芝柳町工場事件」参照)。
(2) (上記(1)にあたらない場合であっても)継続雇用への合理的期待が認められる契約であると認められる場合(最判昭和61.12.4「日立メディコ事件」参照)。
もちろん、解雇権濫用法理の類推適用が認められたからといって、理論的に必ず雇止めが不適法となるわけではないのですが、不適法とされているケースが多く、特に(1)のようなケースにおいては、裁判例においてもほとんどが不適法とされているようです。
裁判例では、以下の要素を総合的に判断して、解雇権の濫用法理の類推適用がなされるか否かを決している例が多いと思われます。
[1] 業務の客観的内容(従事する仕事の種類・内容・勤務の形態)
[2] 契約上の地位の性格(地位の基幹性・臨時性)
[3] 当事者の主観的態様(継続雇用を期待させる当事者の言動、認識の有無・程度等)
[4] 更新の手続・態様(契約更新およびその手続の有無、回数、勤続年数等)
[5] 他の労働者の更新状況(同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等)
[6] その他
2) 法律相談において、「更新を○回しているが解雇権濫用法理の類推適用はなされるのか」といった趣旨のご相談を受けることがありますが、解雇権濫用法理の類推適用がなされるか否かは、更新回数のみによって一律に決められるものではなく、契約当初から雇用継続が期待されていたとして解雇権濫用法理が類推適用された事例もあります。
やはり重要となるのは、契約当事者の意思であり、上記1)記載の判断要素を念頭において更新の管理を行っていく必要があります。特に期間雇用の目的に応じて、正社員等の期間の定めなき従業員との間で、募集、採用手続、教育研修、担当業務、就業規則等においての区別化を行うことが必要であると思われます。
- 雇止めの通知上記2記載の雇止めの適法性の問題の前提として、雇止めの通知、すなわち更新拒絶の通知についても注意が必要です。
1) 上記1記載のとおり、期間雇用契約は、契約期間満了により、終了するのが民法上の原則ですが、契約期間満了後も労働者が引続き労務を継続し、かつ、使用者がその事実を知りながら異議を述べなかったときは、同一の条件をもって黙示に更新されたものと推定するとされています(民法第629条第1項)。
このこととの関係で、使用者が雇止めをしようとするときには、契約期間満了前に更新拒絶の意思を明示的に労働者に伝える必要があり(雇止めの予告)、厚生労働省では、雇止めの際のトラブル防止の見地から、厚生労働大臣告示として、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平成15年10月22日厚労告357号。平成20年3月1日一部改正)を策定しています。
2) 上記基準においては、以下の期間雇用契約を更新しない場合には、少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までにその予告をしなければならないものとされています。
(1) 有期労働契約を3回以上更新した場合
(2) 1年以下の契約期間の労働契約が更新又は反復更新され、当該労働契約を締結した使用者との雇用関係が初回の契約締結時から継続して通算1年を超える場合
(3) 1年を超える契約期間の労働契約を締結している場合
また、使用者は、雇止めの予告後に労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なくこれを交付しなければなりません。雇止めの後に労働者から請求された場合も同様です(上記告示第3条)。
厚生労働省の解説によれば、明示すべき「雇止めの理由」は、契約期間満了とは別の理由とすることが必要であるとして、以下のような例をあげています。
[1] 前回の契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていたため
[2] 契約締結当初から、更新回数の上限を設けており、本契約は当該上限に係るものであるため
[3] 担当していた業務が終了・中止したため
[4] 事業縮小のため
[5] 業務を遂行する能力が十分ではないと認められるため
[6] 職務命令に対する違反行為を行ったこと、無断欠勤をしたこと等勤務不良のため
これらの雇止めの理由の記載内容は、契約更新に至らなかった理由として記載することとなりますが、上記2の解雇権濫用法理が類推適用された場合の解雇理由にも関わることになるため、記載に際しては特に注意が必要となると思われます。