整理解雇
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いわゆるリーマンショックを契機とする世界同時不況以降、整理解雇(業績悪化・経営合理化等企業側の事情を理由として行われる解雇)に関する争いが頻発するようになってきました。
当事務所では(というか、多くの法律事務所では)、過去の裁判例・法律雑誌記事等を検索できるシステムを導入しておりますが、そのような検索システムで、「整理解雇」と入力して検索すると、例えば平成21年の分だけでも22件という数多くの裁判例がヒットします。
検索システムには、判決等の裁判所の終局判断がなされた事例のうち主要なものが登載されるだけですので、そのほかに、登載されていない判決等事例、訴訟係属後に和解で解決した事例、訴訟提起前に交渉等で解決した事例等もあると思われますので、特に近年、おびただしい数の整理解雇紛争が生じているものと推測されます。
さて、顧問先の皆様には、先般の東町法律事務所法律実践セミナーにて詳細なご報告をさせていただきましたが、使用者側からみて、整理解雇が有効なものとして認められるためには、まず、整理解雇に限らず解雇一般に当てはまる議論ではありますが、当該整理解雇が、「解雇権濫用(労働契約法16条)」にあたらないことが必要となります。
そして、「解雇権濫用」にあたらないというためには、当該解雇が、(1)客観的に合理的な理由および(2)社会的相当性が必要であるとされていますが、いずれも抽象的な要件であり、どのような場合に認められるかはケースバイケースと言わざるを得ません。
そこで、過去の裁判例が、どのような考え方に立脚し、具体的な事案のどのようなポイントを重視し、どのような結論を出したのかが、ご依頼いただく案件の処理方針を立てる上で重要な参考資料となります。
整理解雇に関する裁判例を概観しますと、上記の解雇権濫用の議論を前提としつつ、以下の4つのポイントから、解雇の有効・無効を判断しているということができます(詳述しませんが、4つのポイントの関係をどう理解するかについても、見解の対立があります。)。
すなわち、整理解雇が有効なものとして認められるためには、判例上、(1)人員削減の必要性、(2)解雇回避の努力、(3)解雇対象者の選定基準・選定の合理性、(4)労使交渉等の手続の合理性が備わっていることが必要とされています。
一連の裁判例の中には、(1)人員削減の必要性や(2)解雇回避の努力について、財務資料や事業計画等を詳細に検討している例や、(3)選定基準・選定の合理性について、使用者側の恣意が(実際に入っていたといえないとしても)外形的に入りにくいような基準・運用がなされていたかを重視する例、(4)労使交渉等の手続の合理性について、交渉等の時期・回数・内容・使用者側からどんな資料が提示されたか等を詳細に認定している例などが数多く見られます。
裁判所がこれらのポイントについて詳細に認定するためには、当事者が、その資料となる的確な証拠を提出しなければなりません。的確な証拠がなければ、詳細な認定をしてもらうことができず、客観的真実と異なる認定がなされてしまうおそれもないとはいえません。
したがって、整理解雇に限った話ではありませんが、何が的確な証拠か、どのような証拠をどのようなタイミングで確保していくか、ということについて正確な理解をしておくことは、一連の手続を円滑に進めるために非常に重要であるといえます。
整理解雇は、経営合理化の最後の手段ですので、皆様、できるだけ回避したいと考えられていることとは思いますが、万一、これを実施又は検討せざるを得ない、という段階に至った場合には、上記の4つのポイントを念頭に置いた措置を検討していただきたいと思います。
また、ある程度手続を進められた段階からでもアドバイス等をさせていただくことはできますし、当事務所では、そのような案件も多数経験しておりますが、ご相談をお聞きしていると、「このタイミングでこの証拠を確保しておけばよかったのに」と思うものの、その時点ではどうしようもなく、フォローのための善後策を検討するほかない、ということも少なくありませんので、できるだけ早い時期にご相談いただければと思います。