震災に関する様々な法律
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はじめに
東北太平洋沖大地震の発生からちょうど1か月が経過しました。死者・行方不明者の数は3万人弱に上っており、避難者の数も徐々に減ってきてはいるものの、15万人を超えています。行方不明者の捜索は今もなお続いており、被害状況の全容は未だ解明されていません。大きな問題となっている福島原発の復旧作業も安定したとはいい難い状況であり、被災者は、先行きの見えない不安を抱えたままです。
しかし、このような状況においても、被災地におけるライフラインの復旧は着々と進みつつあり、被災者は、行政やボランティアの支援を受けながら、生活再建に向けた一歩を踏み出しているようです。
防災分野においては、災害を、(1)予防、(2)災害発生、(3)救助、(4)復旧、(5)復興という段階に分けて考えていますが、地震発生から1か月を経過した今、被災地の状況は、(3)の救助から、(4)の復旧のフェイズへと移りつつあるといえます。
震災からの復旧・復興といえば、先日、林弁護士のコラムで、被災者生活再建支援法をご紹介いたしました(第56回コラム「被災者の方々に対する生活再建支援制度」)。同法は、被災者の生活再建において最も重要な法律ですが、震災に関しては、これ以外にも様々な法律が存在します。そこで、このコラムでは、震災に関するその他の主な法律の概要をご説明したいと思います。
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災害対策基本法
災害対策基本法は、防災に関する法令の基本法ともいうべき法律です。平時及び非常時の防災のための組織に関する規定、計画的な防災対策を推進・実施するための防災計画に関する規定、災害予防・災害応急対策・災害復旧に関する規定等が置かれています。
もっとも、同法は、主として防災に関する法律であり、災害発生直後の応急対策については一定の基本的施策が示されているものの、災害復旧については、基本的施策は、被災者生活再建支援法等の個別の法律に委ねられており、同法には明確な基本方針が定められていません。そのため、以前から、被災者の生活再建に向けた災害復興のための基本法制定の必要性が叫ばれていました。
今回の震災を受けて、自民党は、3月30日に、「東日本巨大地震・津波災害及び原発事故対策に関する緊急提言」を発表し、与党も、3月31日に「東日本大震災復旧復興対策基本法案(素案)」をまとめました。そのため、今後は、災害復興のための基本法の制定に向けた議論が本格化するものと予想されますが、これまでの反省を踏まえ、復興の施策を実施する行政機関の目線ではなく、被災者の立場に立った立法が望まれます。
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災害救助法
災害の救助の段階で、国が、地方公共団体等の協力のもとに、応急的な救助を行うことを定めた法律です。皆さんご存知の(1)避難所や応急仮設住宅の供与、(2)炊出しや食品・飲料水の供給、(3)衣類、寝具等の生活必需品の給与又は貸与、(4)被災者の救出、(5)学用品の貸与、(6)埋葬等はこの法律に基づいて行われています。
災害救助法による救助は、現物支給が原則とされており、行政が災害時において現物支給を行うための法律ということができますが、現物支給の原則に固執する余り、多様化する被災者のニーズに対応していない等の問題点も指摘されています。同法23条2項によれば、都道府県知事が必要があると認めた場合には、現金支給が可能とされていますので、行政は、この規定を積極的に活用し、被災した零細事業者に対する早期の再起のための現金支給を行う等、被災者のニーズに合わせた柔軟な運用をして欲しいと思います。
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災害弔慰金の支給等に関する法律
災害により生命又は身体の被害に対して金銭的援助を行うための法律です。家庭の生計維持者が死亡した場合は、500万円、その他の者が死亡した場合は、250万円が、災害弔慰金として配偶者、子、父母等に対して支給されます。また、精神や身体に重度の障害を負った方に対して支給される災害障害見舞金や、災害により負傷又は住居、家財の被害を受けた方に対して生活再建に必要な経費を貸し付ける災害援護資金についても定められています。
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罹災都市借地借家臨時処理法
長たらしい名前の法律ですが、罹災都市における借地借家人の保護を図るための法律として昭和21年に制定されました。制定時期からもお分かりのとおり、この法律は、戦災により借地借家人が建物を失った場合の関係者の権利関係の調整のための臨時法として制定されたものであり、特殊な権利義務を創設する内容となっています。
この法律によれば、滅失した建物の借家人は、(1)借家の敷地の所有者に申し出ることにより、他の者に優先して、相当な借地条件でその敷地を賃借できたり(優先借地権)、(2)借地権者に申し出ることにより、他の者に優先して、相当な対価で、借地権を譲り受けたりすることができます(借地権優先譲受権)。
しかし、このような特殊な法律関係は、経済が発達し高度に都市化した現代社会に適合しない内容であり、阪神淡路大震災の際にも同法が適用されましたが、被災地が混乱し、大きな問題となりました。そのため、阪神淡路大震災を契機として、同法の改正が求められるようになり、日本弁護士連合会も、昨年10月に改正意見を公表していますが、未だ改正には至っておりません。一部報道によれば、法務省は3月14日、今回の震災の被災地に対してこの法律を適用する方針を決めたとのことですが、詳細は不明です。
仮に適用されるとしても、優先借地権や借地権優先譲受権を認めれば、被災地の混乱を招くことは明らかですので、限定的に適用される必要があるでしょう。