第8回 簡易な裁判手続について
執筆者
民事紛争を裁判所で解決する手段としては,通常訴訟がまず頭に浮かびますが,通常訴訟は,適正かつ公平な紛争解決に重点がおかれているため,手続が複雑となって一般の方々には利用しにくいものであったり,場合によっては訴訟手続が遅延して迅速な紛争解決に結びつかない場合があります。そこで,簡易迅速かつ低廉な費用による裁判手続として,簡易裁判所における支払督促や少額訴訟という手続があります。
支払督促は,(a)金銭の支払または有価証券等の引渡しを単に求める場合であって,請求できる金額に上限はなく,申立の回数制限もない,(b)債権者は申立書を裁判所書記官に対して郵送等で提出するだけでよく,裁判所に出頭する必要もない,(c)申立に際して証拠を添付する必要がない,(d)仮執行宣言申立に応じて仮執行宣言が付く,(e)通常訴訟の半額の手数料で申立ができるが,債務者の住所地を管轄する簡易裁判所書記官に申し立てる必要がある,といった特徴があります。支払督促は,書面のやりとりだけで手続が完結しますので,債権の存在及びその範囲自体には争いがないのに事実上支払いがなされない場合などに適しています。
一方,少額訴訟は,(a’)60万円以下の金銭支払いを求める場合で,同一の簡易裁判所に対して年間10回までに限る,(b‘)原告及び被告双方が裁判所に出頭し,原則として1回の期日で双方の主張立証をおこない,即日判決が言い渡される,(c‘)証拠書類や証人は,その場で調べられるものに限る,(d‘)仮執行宣言が付くが,分割払いや支払猶予の判決がなされることもある,(e‘)手数料は通常訴訟と同じだが,弁済などの義務履行地を管轄する簡易裁判所などに訴え提起することができる,といったことが特徴として挙げられます。このように,少額訴訟は,ある程度,当事者間の立証活動や,話し合いも加味した手続と言えます。
支払督促,少額訴訟とも,簡易な手続で仮執行宣言という即時に強制執行を可能とする効力などが発生しうることから,債務者側が,これらの手続による裁判に不服がある場合は,申立によって通常訴訟へ移行し,適正且つ公平な紛争解決に重点をおいた裁判がなされることになります。
なお,上記のような支払督促の特徴を悪用し,支払督促による架空請求がなされる事例があります。このような場合は,身に覚えのない請求であるからといって放っておかず,弁護士や裁判所にお問い合せいただき,異議申立書を提出するようになさってください。