第9回 コンプライアンスリスク回避のための効果的な社内教育・研修の必要性
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会社法が,大会社および委員会設置会社に,株式会社の業務の適正を確保するための「内部統制システムの整備」を義務付けたことに伴い,内部統制システムの大きな柱である「コンプライアンス体制」と「リスク管理体制」の構築が進んできています。しかし,他方では,依然として,いわゆる企業不祥事が後を絶たないことから,近時,コンプライアンスとリスク管理が交錯する場面である「コンプライアンスリスク」についての実効性のある管理体制構築の必要性が議論されています。
ところで,実効性のあるコンプライアンスリスクの管理体制を構築するためには,(1) その必要性につき経営トップと従業員が共通の認識を持つことと,(2) 自社の業務固有のコンプライアンスリスクを分析したうえ,それに対応した実際に機能することが可能な管理体制を構築することが,特に必要と思われます。
そして,上記(1)(2)のいずれについても重要となるのが,経営者および従業員双方に対する社内教育・研修です。ところで,この社内教育・研修においては,当然,コンプライアンスリスクの管理体制構築の必要性を認識してもらい,その管理体制が全うに機能するために必要な基礎的知識の教授がなされます。しかし,その内容は,勢い,難解な法律や判例の一般的な解説にとどまるか,逆に即時に理解できないような詳細な解説に傾く傾向があります。このような内容の社内教育・研修の成果は,受講者・参加者のコンプライアンスリスクの管理体制構築の必要性についての十分な理解や基礎知識の習得に結び付かないという結果に終わってしまいます。
このような事態を避けるためには,近時よく言われているように,自社において過去に実際に発生したコンプライアンスリスク事案やいわゆる「ヒヤリ・ハット事例」をテーマにすることが有用です。しかし,これだけでは賄いきれない法的基礎知識については,受講者・参加者のレベルに合わせて,その法律ないし制度の趣旨を効果的に教授することが重要となります。
コンプライアンスリスクに関係する法的知識は,一方では,詐欺・横領を行わないといったような法的知識自体については常識の範囲で理解できるものもありますが,他方では,インサイダー取引規制等を定める金融商品取引法,不当な取引制限・不公正な取引方法等を定める独占禁止法,下請取引の公正化等を定める下請法,営業秘密保護等を定める不正競争防止法,消費者契約法等の消費者関係法,サービス残業・メンタルヘルス・セクハラ・パワハラに関係する労働関係法,個人情報保護法,公益通報者保護法,環境関連法等,常識だけでは理解しがたい部分があり,一応の基本的知識の習得を必要とするものが数多く存在します。コンプライアンスリスクを避けるためには,経営者・従業員がこれらにつき一応の基本的知識の習得が不可欠であり,これらについての無知・誤解は企業にとって致命的な結果をもたらす危険性があります。
企業の経営者の方々には,コンプライアンスリスクに関係する法的知識の社内教育・研修を通り一遍の形式的な内容のものに終わらせず,自社において過去に実際に発生したコンプライアンスリスク事案やいわゆる「ヒヤリ・ハット事例」と組み合わせるとか,各法規制の忘れてはならないエッセンスのみを教授するとか等の工夫を凝らした効果的な内容で実施することが不可欠であるとの認識を持っていただきたいと思います。
なお,当事務所では,従前から東町法律実践セミナーを開催し,顧問先の皆様のうち法務部門や関係部署の担当者を対象として,タイムリーな情報提供をしてまいりました。しかし,上記のように,コンプライアンスリスクを避けるためには,経営者・従業員全体を対象として,かつ,受講者・参加者のレベルに合わせて,その法律ないし制度の趣旨を効果的に教授し一応の基本的知識を得ておいていただく必要があることを痛感しており,近時は,ご依頼があれば,従来のノウハウを生かして,個別に,そのための教材作りや講師の派遣をしております。必要があれば,各企業に相応しいメニューを提供いたしますので,遠慮なくご相談ください。