第23回 仲裁による紛争解決
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- 仲裁とは
いわゆる「仲裁」というと,「喧嘩を仲裁する」,「仲裁を買って出る」というように,対立する者の間に入って仲直りをさせるという意味で用いられますが,法律用語としての仲裁(arbitration)とは,ある紛争の処理を,裁判所ではなく,私人である仲裁人(arbitrator)の判断に委ねる紛争解決方法のことをいいます。私的な裁判であり,この点で,調停人が当事者の話し合いを促して和解に導こうとする調停(mediation)とは異なります。
- 仲裁の特徴
仲裁のメリット・デメリットについては,ADR(alternative dispute resolution)について一般的に言われていることが当てはまりますが(第18回コラムをご参照ください。),仲裁には,その他にも以下のような特徴があることから,特に,クロスボーダーの紛争において,裁判より適した紛争解決手続であると言われています。
(1) 中立性
裁判では,裁判地の国の裁判官に紛争の処理が委ねられることから,国によっては,自国の当事者に有利な判断がなされるおそれがありますが,仲裁は,合意により,仲裁人を選任することができるため,当事者が信頼し得る者に判断を委ねることができます。
(2) 仲裁地(place of arbitration)
裁判では,どこで裁判を行うかについて,原告に選択権があることから,相手方に不利な地で裁判が行われると,被告の応訴の負担が増すことになります(ただし,通常は,契約書で合意管轄を定めてあります。)。これに対し,仲裁であれば,どこで仲裁を行うかを事前に当事者の合意で決めておくことができるため,裁判のような弊害はありません。なお,実際に仲裁手続を行う場所は,必ずしも仲裁地である必要はありません。
(3) 使用言語
裁判による場合,裁判地の国の言語を使用する必要がありますが,仲裁であれば,当事者の合意で使用言語を決めておくことができ,通訳・翻訳の負担を軽減することができます。
(4) 準拠法(governing law)
仲裁では,紛争の実体判断に適用される法律(これを準拠法といいます。)を予め当事者の合意で決めておくことも可能です。これに対し,裁判では,裁判地の国際私法(conflict of laws,わが国では,法の適用に関する通則法がこれに当たります。)により,準拠法が決まってしまうため,どのような判断がなされるかについて当事者による事前の予測が困難であると言われています。
(5) 承認・執行(recognition and enforcement)
ある国の判決を他の国で執行するという場合,執行しようとする国で当該判決が承認される必要がありますが,常に他国の判決が承認されるとは限りません。例えば,わが国の裁判所の下した判決は,中国では承認されないとされています。これに対し,仲裁の場合は,外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(Convention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards,いわゆる「ニューヨーク条約」)があり,全世界で130以上の国がこの条約の締約国となっていることから,容易に仲裁判断(arbitral award)の承認・執行を行うことができます。
- 仲裁合意について
仲裁をするためには,事前に当事者間で紛争を仲裁により解決する旨を合意する必要があります。紛争が生じた後に仲裁合意をすることもできますが,取引の当事者間であれば,契約書に仲裁条項(arbitration clause)を設けておくことが通常です。
仲裁条項においては,仲裁地,利用する仲裁機関・規則(arbitration rules),仲裁人の数・選任方法,準拠法,使用言語等を自由に決めることができますが,自己に不利な内容とならないよう,また,後に仲裁合意が無効とされることのないよう,契約書における仲裁条項のドラフティングは特に慎重に行う必要があります。
当事務所では,具体的な仲裁条項のドラフティングについても適切な助言を行っておりますので,お困りの際は,お気軽にご相談ください。