第32回 プロサッカー選手の契約
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サッカーのワールドカップ南アフリカ大会が開催されています。ご当地の楽器,ブブゼラの音色がやたらと耳に残っていますが,このコラムを書いている時点で,日本は予選リーグ1勝1敗。決勝トーナメント進出の可否が次のデンマーク戦の結果如何によることとなりましたので,まだまだ目が離せない状況が続いています。
さて,今回は,ワールドカップ期間中ということで,プロサッカー選手の所属クラブとの契約についてご紹介したいと思います。
(財)日本サッカー協会(以下「JFA」といいます。)のウェブサイトによると,JFAに登録するプロ選手は,大きく分けて,統一契約選手とその他の選手とに分類され,さらに,統一契約選手は,プロA選手・プロB選手・プロC選手に分類されています。
この内,最も高いレベルの区分は「プロA選手」であり,1クラブが契約できる人数の上限(25名まで),基本報酬の最低額の規制(原則として480万円/年以上)などが設けられています。
以下,プロA選手用にJFAが定めた契約書式(以下「プロA選手契約」といいます。)について,簡単にご紹介いたします。なお,以下の記述のうち,意見にわたる部分は,完全な私見にすぎませんので,そのような前提でお読みください。
プロA選手契約は,合計16条の条項からなる契約で,選手の義務,禁止事項,報酬,選手の肖像等の使用,契約解除,制裁等について規定されています。
(具体的な契約内容については,http://www.jfa.or.jp/jfa/rules/download/06/01.pdfをご参照ください。)
選手の義務として私の目を引いたのは,「プロ選手として公私ともに日本サッカー界の模範たるべきことを認識し,日本サッカーの信望を損なうことのないよう努め」る義務です(プロA選手契約第1条(3))。プロスポーツが子どもや世間に夢を与えるという性質を有するものである以上,要求されてしかるべき事項だとは思いますが,内容が抽象的であり,基本的に,(違反した場合に契約解除という効果が生じうる)法的な義務と評価することは困難なように思います。
そのほかにも,クラブから支給されたユニフォーム等の使用義務(同第22条(4)),ファンサービス活動・社会貢献活動への参加義務(同条(6))等,一般の契約ではあまり目にすることのない義務も規定されています。
また,禁止事項として,クラブ等の内部事情の部外者への開示が規定されています(同第3条(1))。私どもの日常業務の中では,秘密保持契約や秘密保持条項を含む契約の作成・チェック等を行う際,秘密保持義務の厳格性と,開示禁止の対象となる情報の特定性とのバランスをどのように取るかに頭を悩ませることが少なくありませんが,プロサッカー選手にも,様々な形式・内容の重要情報に接する機会があると思われますので,現実に問題が生じた場合には,同様の問題からの争点が出てくるかもしれません。
クラブによる契約解除については,書面での通知による即時解除が認められています(同第9条(1))。解除事由の内容は厳格であるものの,ひとたび契約が解除されると,選手の就業の機会が即時に失われる結果となりますので,クラブ側には,解除権の行使にあたっては慎重な検討が求められるのではないかと思います。
また,契約の修正については,クラブ・選手の署名・押印ある文書によってのみ可能とされ,口頭の修正は効力をもたないものとされています(同第13条)。当初の契約において,将来の契約変更の方法について規定する例はさほど多くないように感じますが,明確性を確保するという意味で,意義のある条項であると思います。
華やかな面にスポットが当たるプロスポーツ選手のパフォーマンスも,クラブとの詳細な取り決め(契約)の上に成り立っているもので,契約内容の重要性は,一般の商取引等の契約と変わるところはありません。今のところ,プロスポーツ選手の契約が注目を浴びるのは,契約更改や移籍の際くらいですが,年俸や契約金以外の契約内容についても気にしてみたいと思います。