ICC(国際商業会議所)の新しいインコタームズ2020の概要
~2020年1月1日から発効~
執筆者
1 Incoterms 2020 の公表
2019年9月10日、ICC(国際商業会議所)は、国際貿易取引の基本的な取引条件を定めたインコタームズ(Incoterms)を10年ぶりに改定したインコタームズ2020を発表しました。現行のインコタームズ2010の改定版であるこの新しいインコタームズ2020は、2020年1月1日に発効します。
2 Incoterms 2020の特徴
(1) Incoterms 2020は、11条件が次の2つのクラスに分類されています。
なお、現行のIncoterm 2010でも、11条件が次の2つのクラスに分類されており、あらゆる運送に適した規則が7つ、海上運送のための規則が4つとなっており、Incoterms 2020でもこのクラス分けと各クラスの条件の数はIncoterms 2010と同様です。
(2) Incoterms 2020の条件
Ⅰ あらゆる輸送形態に適した規則
-
- EXW(Ex Works):工場渡し
- FCA(Free Carrier):運送人渡し
- CPT(Carriage Paid to):輸送費込み
- CIP(Carriage and Insurance Paid to):輸送費保険料込み
- DAP(Delivered at Place):仕向地持込渡し
- DPU(Delivered at Place Unloaded):仕向地荷下渡し(2020で新設)
- DDP(Delivered Duty Paid):関税込持込渡し
Ⅱ 海上および内陸水路輸送のための規則
-
- FAS(Free Alongside Ship):船側渡し
- FOB(Free on Board):本船渡し
- CFR(Cost and Freight):運賃込み
- CIF(Cost, Insurance and Freight):運賃保険料
(3) FCAの維持
- FCA (Free Carrier)は、現行のIncoterms 2010では(海上運送も含めて)どのような運送形態にでも適用されるグループの条件です。FCAは、運送人渡しの条件で、さまざまな場所(売主の営業所、陸上輸送ターミナル、港、空港など)での商品の引渡しが可能ですので、最もよく使用される条件と言われています(国際貿易業務の約40%はFCAで行われているとも言われています)。
- 現在の実務では、FCA条件のほとんどは、売主(輸出者)の国で、貨物が滅失等した場合の危険負担が売主(輸出者)から買主(輸入者)に移転します。
- Incoterms 2020公表前には、FCAを①陸上での引渡しと、②海上での引渡し、の2つに分かれるとの噂もありましたがIncoterms 2010の形が維持されました。もっとも、Incoterms 2020において、海上運送による場合に、買主(輸入者)は、運送人に船積みされたことを記載した船荷証券の発効を指示しなければならないとするオプションが初めて規定されました。
- FCAでは、売主の工場などでの引渡の場合には、運送人へ引き渡す時点まで、売主(輸出者)が費用とリスクを負担し、その後は買主(輸入者)が負担します。輸出の通関手続は売主(輸出者)が行い、船舶・航空機などへの積込みは買主(輸入者)が行います。
他方、それ以外の場所が引渡場所として合意された場合は、その場所で貨物の引渡準備が完了した時点で、売主(輸出者)から買主へ費用とリスクが移転します。 - FCAは、FOBとよく似ています。しかし、FOBは海上運送の場合には在来船に対する条件、FCAはコンテナ船に対する条件という使分けがされています。つまり、FOBとFCAでは、リスクが移転する時点が異なります。FOBでは貨物が船舶に船積みされた時点で、危険負担が売主(輸出者)から買主(輸入者)に移転します。他方、FCAは船積みの時点ではなく、運送人のCY(コンテナヤード)やCFS(コンテナーフレイトステーション)など合意がある場合は、その場所で引渡準備が完了した段階で、売主(輸出者)から買主(輸入者)に危険が移転します。引渡場所の具体的な合意がない場合、売主(輸出者)が具体的な場所を指定することができます。
(4) DPU(Delivered at Place Unloaded)の新設
Incoterms2020では、Incoterms2010のDATが廃止され、新たにDPUとされました。
DPUは、売主(輸出者)が、指定された仕向地に商品を配送し、荷降しをすることに伴う全てのリスクを負担することになります。荷降しのリスクも負担する点で、DAPと異なります。
(5) DDP(Delivered Duty Paid)の維持
Incoterms 2020公表前の噂では、現在のDDPは廃止され2つのインコタームに分割されることなどが言われていましたが、Incoterms2010のDDP(Delivered Duty Paid)はIncoterms2020でも維持されました。
(6) FASの存続
FAS(Free Alongside Ship)は、海上運送に適用される条件のグループに属する条件であり、Incoterms 2020の公表前には、ほとんど使用されていないため削除されるとの噂もありましたが、削除されませんでした。
(7) FOB・CIFの維持
- 世界の国際取引の約80%はコンテナ輸送により行われているといわれていますが、Incoterms 2010では、コンテナ輸送でFOB・CIFは使用すべきではなく、ICCもこれらの条件の使用を推奨していません。しかし、実務上は、未だにこれらの条件が多用されているのが実態です。
- Incoterms 2020の公表前予想では、Incoterms 2000以前と同様に、FOB・CIFをコンテナ輸送に適した条件に整備し直すとの噂がありましたが、そのような整備はなされず、Incoterms 2010の条件が維持されました。
この点は、実は非常に重要です。ICCはIncoterms2010と同様、FOB・CIFはコンテナの海上運送に使用するのは不適切としているからです。
2018年の台風21号の際には、関西エリアで、港湾運送業者の上屋や倉庫、コンテナヤードで保管中の貨物が高潮により被害に遭いましたが、FOB・CIFでの取引であったためそのリスクを負担せざるを得ず、他方、国際海上貨物保険で填補されないため実害を被った企業も多くありました。FOB・CIFを十分に理解せず使用していたことと、輸出FOB保険や国内の貨物保険を締結していなかったことの2点が根本的な原因です。輸出FOB保険等でも全てのリスクがカバーされるわけではなく地震や噴火による損害の場合は対象外ですが、台風21号に関してはカバーされる事案でした(昨年の台風21号の高潮等に伴う貨物の被害等に対するリスクヘッジについては、第221回 物流と天災 〜地震,台風,高潮,洪水等の自然災害による貨物の滅失・損傷と損害賠償責任〜をご参照ください)。