一つのインスタ映えで職を失う?ワールドカップも失う?
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待ちに待った大イベントがついに開会しました!世界中のラグビーファンは,7週間にわたって,ラグビーワールドカップ2019日本大会から目が離せません。日本代表のブレイブブロッサムズとオーストラリア代表のワラビーズが共に好発進し,一試合目には勝利とボーナスポイントを獲得しました。しかし,オーストラリア代表の選手が危険タックルで3試合の出場停止処分を科されて,プールDの試合に出場できなくなりました。
注)本コラム執筆後に両代表が決勝トーナメント進出を決定させました。
日本ではニュースにあまり取り上げられませんでしたが,大会の開会5カ月前に,あるオーストラリア代表選手が大会に出場できなくなりました。その理由は,信じられないかもしれませんが,インスタグラムの投稿でした。敬けんなクリスチャンであるイズラエル・フォラウ(Israel Folau)選手は,今年の4月10日に,インスタグラムに「同性愛者への中傷」として指摘された画像を投稿しました。フォラウ選手のSNS投稿は,反同性愛者として批判を受けることが初めてではなかったため,オーストラリアラグビー協会の反応は迅速で,翌日にフォラウ選手のオーストラリア代表からの追放を発表しました。フォラウ選手との4年間,400万豪ドルの契約の終了を正当化する理由は,フォラウ選手のSNS投稿が同協会の行動規範(Code of Conduct)に違反するというものでした。フォラウ選手は8月に不当解雇の訴訟を起こしており,その経過が注目されています。
また,同年8月に,オーストラリアの最高裁判所が,非常に重要な判決を下しました。Comcare v Banjeri事件として知られるこの事件は,当時のオーストラリア連邦の移民・市民権省(現在,内務省,以下「省」)に所属していた公務員(以下「B」)が,ツイッターの匿名アカウントから,省の方針や運営方法への批判をはじめ,省の同僚,与党,野党の連邦議会の議員を批判する9000以上ものツイートを投稿したというものでした。Bのツイートには,就業時間内に投稿されたツイートもありました。
省は,省の人事課がBのSNSの利用について通告を受け,調査をした結果として,連邦の公務員に適用する行動規範に違反したことを理由にBを解雇しました。Bは,不当解雇の訴訟を起こして,オーストラリアの公務員法に規定されている行動規範が,憲法上の暗黙的な権利として認められている政治的発言の自由を不当に制限するものと主張しました。一審の判決は,憲法上の自由が不当に制限されたことを認めました。しかし,最高裁判所がその判決を破棄して,憲法上の自由の制限が正当であり,Bの解雇が不当ではなかったとの判決を下しました。その理由は,仮にSNSへの投稿が匿名アカウントだったとしても,特定されるリスクがあり,省にとってレピュテーションリスクがあるというものでした。
結果として,Comcare v Banjeri事件は,24万人以上のオーストラリア連邦公務員に適用する行動規範が,組織の信用を守るために,公務員の個人のSNSの利用を正当に制限できることを認めたものといえます。フォラウ選手の事件の在り方が,民間企業にも採用されるルールであるかについて,今後の動向が注視されるところです。