事業承継時に焦点を当てた経営者保証GL特則について
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会社が金融機関から借入れをする場合、債務者は会社ですが、特に中小の企業においては、代表者など経営者個人も連帯保証人となることが通例となっており、心理的・経済的に負担となっていました。
このような経営者保証を提供せず、融資を受ける際や保証債務の整理の際の「中小企業・経営者・金融機関共通の自主的なルール」として中小企業庁、金融庁、日本商工会議所や全国銀行協会などが関与し、平成26年に策定されたのが「経営者保証に関するガイドライン」(以下「GL」)です。
GLは、法律ではなく「自主的なルール」という位置づけですが、実際に、経営者保証を徴求しない融資割合は増加しています(下表「新規融資に占める経営者保証に異存しない融資割合の推移」参照)。
出典:2019年版中小企業白書
特に、近年は「大廃業時代」という言葉にもあるとおり、経営者の高齢化が一段と進み、後継者不在のため事業承継を断念し、廃業、解散する件数は年々増加しており、地域経済の維持発展に大きな支障が懸念されます。そして、後継者が事業承継をするあたってハードルとなるのが、冒頭の経営者保証です。“新社長として会社を引っ張っていく意思はあるが、過去に累積した数億もの会社借入金の連帯保証人まで引き継ぐのは、、、”という躊躇はよく分かります。
従来のGLでも「事業承継時の対応」という項目(第6項(2))が設けられており、上表「事業承継時の保証徴求割合の推移」のとおり、二重徴求はここ数年で随分と減っていますが、さらに今般、GLを補完する形で、「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」(以下「GL特則」)が策定、公表され、令和2年4月1日から適用されます。
詳細はhttps://www.jcci.or.jp/chusho/tokusoku.pdfのとおりですが、大まかにいえば、金融機関などの債権者に対し、
① 原則として前経営者、後継者の双方から二重には保証を求めない
② 後継者との保証契約に当たっては経営者保証が事業承継の阻害要因となり得る点を十分に考慮し保証の必要性を慎重かつ柔軟に判断する
③ 前経営者との保証契約については、前経営者が実質的な経営権・支配権を有さないなどの場合、保証解除に向けて適切に見直しを行う
ことが求められています。GL特則も、GLと同じく「自主的なルール」ではありますが、事業承継にあたり経営者保証を徴求しない扱いはさらに増加していくでしょう。
もちろん、「GL特則ができたから、当然に後継者は保証しなくていいのだ」ということではなく、個別判断ですので、会社側は、自社の状況を金融機関に誠実・丁寧に説明していく必要があります。そして、そのような説明や資料作成のために、各地の商工会議所をはじめとする公的機関が、専門家の紹介や費用の補助・支援などを行っています。
また、経営者保証の問題だけでなく、「そもそも親族内や社内に後継者がいない、できることなら第三者に事業を譲り、社会に残していきたいが、どうやって探せばいいか分からない」といった事柄についても、商工会議所などにある「事業引継ぎ支援センター」が支援しています(https://shoukei.smrj.go.jp/)。相談もマッチングも無料です。
事業承継は、従来は民間同士だけで行われてきましたが、上記の大廃業時代への危機感は、国、地方公共団体その他公的団体も共有するところであり、様々な公的制度・支援が用意されています。
会社の身近な相談相手は、金融機関や税理士さんだと思いますが、以上のような公的窓口や制度・支援を利用いただくこともご検討ください。
出典:https://web.hyogo-iic.ne.jp/jigyosyokei/
西川精一
兵庫県事業引継ぎ支援センター「マッチングコーディネーター」
兵庫県事業承継ネットワーク「事業承継支援専門家」