第67回 刑事裁判手続への被害者の関与
執筆者
刑事裁判といえば,左側に検察官,中央に裁判官,右側に被告人と弁護人,というテレビでもおなじみの光景が目に浮かぶ方が多いと思います。平成21年からは裁判員制度が始まりましたので,中央には裁判官と裁判員がずらりと並ぶ,というケースもありますが,今回のコラムは,左側の席,つまり検察官側の席で被害者が刑事裁判に参加するという被害者参加制度についてのご説明です。
従来,刑事裁判へ関与できるのは,基本的に検察官・裁判官・被告人・弁護人のみでした。当の犯罪被害者やその遺族らについては,平成12年に「意見陳述制度」が導入され,被害に関する心情等について意見を述べることができるようになり(JR福知山線事故の裁判における被害者遺族の方々による意見陳述が記憶に新しいところです),その点では,一歩前進したのですが,意見の内容は犯罪事実の認定のための証拠とすることができないとされ,依然として裁判手続への関与は限定的でした。
この被害者らによる裁判手続への関与をさらに進めるものが,被害者参加制度であり,裁判員制度に先駆けて平成20年12月から始まっています。
対象となる犯罪は,故意に人を死傷させた罪,強制わいせつや強姦の罪,業務上過失致死傷罪などに限られますが,一定の手続をふまえて参加が許可されれば,被害者やその遺族らは,(1)公判期日に出席して検察官の横に座り,(2)検察官の権限行使に関して意見を述べ,(3)証人に対して,情状部分に限りますが自らが反対尋問をし,(4)被告人に対して,情状部分に限定されず広く質問をし,(5)事実や法の適用に関する意見を述べること(いわゆる論告)ができます。また,(6)第1回公判期日前でも刑事記録の閲覧謄写ができる場合があります。
そして,これらの手続は,弁護士に依頼することができますし,資力の乏しい被害者は,国の費用で被害者参加弁護士を選任することもできます。弁護士が,刑事裁判において被害者側に付き,しかも国選弁護まで可能となったということは,画期的なことだと思います。私も,先日,被害者参加弁護士として活動しましたが,通常は対立する立場にある検察官と協議・協調しつつ刑事裁判に関与するという経験は非常に新鮮でした。
被害者参加制度の他にも,刑事事件に起因する損害賠償問題の早期解決のために刑事裁判手続を利用した刑事和解や損害賠償命令といった制度が整備され,さらに裁判手続外でも犯罪被害給付制度が拡充されるなど,犯罪被害者に対する支援や負担軽減の仕組みは,この10年余りの間に大きく前進したといえます。