第77回 ピンク・レディー de ダイエット…思い届かず。
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アイドルやスポーツ選手等の著名人の写真は,ファンからすると非常に興味をそそられるものですので,コンサート会場などで,写真付きのうちわ,キーホルダー,ストラップやパンフレット等のグッズが販売されており,人気のあるアイドルの場合,このような商品を購入するためにファンが長蛇の列をなしている場面もしばしば見かけられます。また,雑誌でも,人気のあるアイドルの名前や写真を掲載することで,購買部数が伸びることもよくあるかと思います。このような場合,通常は,その著名人が所属する事務所等が,販売・掲載する業者に許可を与えて販売・掲載がなされていますが,中には,許可を得ず,勝手に著名人の名前や写真を使い,グッズや雑誌を販売する者もいます。このように,著名人が,自らの名前や写真を勝手に使用された場合,勝手に使用した者に対して,何か主張することはできないでしょうか。
これが争われたのが,「ピンク・レディー de ダイエット」事件です。この事件では,雑誌等の出版社であるYが,その発行する女性週刊誌(以下「本件雑誌」といいます。)において,主として昭和51年から56年にかけて活動したピンク・レディーの振付けを用いたダイエットを紹介する記事(「ピンク・レディー de ダイエット」。以下「本件記事」といいます。)を掲載したところ,ピンク・レディーのメンバーのX1及びX2が,自己の写真計14枚を,本件雑誌の販売促進という商業目的のために無断で使用されたことによるパブリシティ権侵害を理由として,Yに対して約186万円の損害賠償を請求した,というものです。
本件記事の内容は,3ページにわたって,ピンク・レディーの代表曲5曲(「渚のシンドバット」「ペッパー警部」「UFO」「ペッパー警部」「カルメン‘77」)の振付けを利用した記事とともに,14枚の写真が掲載されていたというものであり,その写真は,かつて,別の機会に,Yが,X1及びX2らの同意を得て撮影したものでしたが,今回の掲載については,X1らの同意を得ていませんでした。
この事件で,知財高裁平成21年8月27日判決では,以下のように述べ,X1及びX2らピンク・レディー側の請求は棄却されました。
すなわち,本判決では,まず,一般論として,著名人の氏名・肖像が有する経済的利益・価値も人格権に由来する権利として,当該著名人が排他的に支配することができる権利,つまり,パブリシティ権が認められるとした上で,著名人の氏名・肖像の使用がパブリシティ権侵害として違法性を有するか否かは,著名人が自らの氏名・肖像を排他的に支配する権利と,表現の自由の保障ないしその社会的に著名な存在に至る過程で許容することが予定されていた負担との利益較量の問題として相関関係的にとらえる必要があり,その氏名・肖像を使用する目的,方法,態様,肖像写真についてはその入手方法,著名人の属性,その著名性の程度,当該著名人の自らの氏名・肖像に対する使用・管理の態様等を総合的に観察して判断されるべきとの判断基準を示しました。
その上で,本件記事における写真の使用が,ピンク・レディーの楽曲に合わせて踊ってダイエットをする,という本件記事に関心を持ってもらい,あるいは,その振り付けの記憶喚起させる手段として利用されているというダイエット記事としての内容・構成,写真の使用態様などによると,本件記事における写真の使用は,X1及びX2が社会的に顕著な存在に至る過程で許容することが予定されていた負担を超えて,X1及びX2が自らの氏名・肖像を排他的に支配する権利が害されているものということはできないとして,X1及びX2の請求(控訴)が棄却されました。
以上のとおり,本件では,ピンク・レディーファンにはとっては残念な結果とはなりましたが,冒頭の事案のように,著名人の写真を許可なく勝手に使用したグッズなどであれば,その写真の使用目的・方法は不適切であり,また,入手方法が適切でないことも十分に考えられるので,総合的に観察して,著名人から,無断使用者への請求は認められるものと思われます。
このように,著名人の氏名や写真を勝手に使用して,グッズや雑誌の販売等をしてしまうと,後日,思わぬ損害賠償を請求される可能性がありますので,くれぐれもお気をつけ下さい。