第85回 3分でわかる合意管轄条項
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今回は,契約書でよく目にすることがある合意管轄条項について,解説いたします。
合意管轄条項というのは,例えば次のような条項です。
「本契約に関連して甲乙間に生じる一切の紛争は神戸地方裁判所を専属的管轄裁判所とする。」
合意管轄条項は,法律上は「管轄の合意」として定められています(民事訴訟法11条)。管轄の合意とは,当事者の合意によって管轄裁判所を決めてしまうものです。土地管轄(どこの裁判所か)だけでなく,事物管轄(簡易裁判所か地方裁判所か)についても合意することができますので,例えば,神戸地方裁判所ではなく神戸簡易裁判所を合意管轄としても構いません(最高裁平成20年7月18日決定参照)。
ただし,管轄の合意の対象は第一審の裁判所に限定されています。そのため,簡易裁判所や地方裁判所を合意の対象とすることはできますが,高等裁判所や最高裁判所を合意することはできません(民事訴訟法11条1項)。したがって,例えば「大阪高等裁判所を専属的管轄裁判所とする。」という合意は無効です。
管轄の合意は「一定の法律関係に基づく訴え」(同条2項)に関してなされる必要があります。「甲乙間に生じる一切の紛争は神戸地方裁判所を専属的管轄裁判所とする。」という合意は,合意の効力を受ける訴えが特定されていないため無効です。もっとも,訴えの内容を厳密に特定する必要はないので,「本契約に関連して甲乙間に生じる一切の紛争」といった程度の特定がなされていれば十分です。
管轄の合意は書面でしなければなりません(同条2項)。また,電子メールでの合意も書面でしたものとみなされるため有効です(同条3項)。
管轄の合意には,専属的合意と付加的合意があります。専属的合意は,当時者が合意した裁判所のみに管轄を認め,それ以外の裁判所の管轄を排除する合意です。例えば,「神戸地方裁判所を専属的管轄裁判所とする。」との合意があれば,神戸地方裁判所以外の裁判所への訴訟は却下されてしまいます。ただし,専属的合意があっても,事案によっては,他の裁判所に移送される可能性がありますので,専属的合意といっても絶対的なものではありません(同法17条,20条1項)。
他方,付加的合意は,当事者が合意した裁判所と法定の管轄裁判所の併存を認める合意です。管轄の合意が専属的合意と付加的合意のいずれを定めたものかが明らかでない場合は,当事者の意思解釈によって決まりますが,契約書では出来る限り明確に定めておくことをお薦めします。例えば,「本契約に関連して甲乙間において生じる全ての紛争は,神戸地方裁判所を管轄裁判所とする。」という条項は,「専属的」という文言がないため,付随的合意と解釈される可能性があります。専属的管轄にしたいのであればその旨を明記しておくべきでしょう。
なお,本件4月1日から施行される改正民事訴訟法では,国際的裁判管轄の合意についての条文が新設されました(新法3条の7)。合意の要件・方式については,国内における管轄の合意と同様ですが,消費者契約及び労働契約にかかる紛争についての国際裁判管轄の合意の要件は厳格なものとされていますので注意が必要です(同条5項,6項)。