第116回 続・私道の通行の自由
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建築基準法上の道路として公法上の制限を受ける私道の通行の自由については,芳田弁護士のコラムですでに紹介されておりますが(第52回「建築基準法による私道の交通の自由」http://www.higashimachi.jp/column/column52.html),同コラムで紹介された判例は,いずれも,私道所有者が障害物を設置するなどして第三者の私道の通行を妨げた場合に,当該第三者からの私道所有者に対する妨害排除請求が認められるかが問題となった事案でした。このような事案について,最高裁判所は,「日常生活上不可欠の利益を有する者は,右道路の通行を敷地の所有者によって妨害され,または妨害されるおそれがあるときは,敷地所有者が右通行を受忍することによって,通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り,敷地所有者に対して右妨害行為の排除および将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格的利益)を有する」と判示しています。したがって,私道所有者が著しい損害を被るなどの特段の事情が認められる場合には,妨害排除請求権が制限され,私道の通行が禁止されることになります。
では,建築基準法上の道路としての私道の所有者が,障害物を設置することなく,私道を利用する第三者に対し,自らが原告となり,通行権不存在確認や私道通行禁止を請求する場合はどうでしょうか。
この点に関する最高裁判例は存在しません。公刊物に登載されたものとしては,建築基準法の目的に反しない限り,私道所有者は,私道の通行に関し合理的な制限を課すことが許されるとして,営業用駐車場の利用のための自動車の通行禁止を認めたもの(長崎地裁佐世保支部昭和58年5月25日判決),私道所有者は,自己所有の2項道路を他人が通行することも受任すべきであるとして,私道所有者からの通行権不存在確認及び通行禁止請求は権利の濫用にあたるとしたもの(東京地裁平成19年2月22日判決)などがありますが,判断基準は確立していません。
わが国では,私人による自力救済は認められておりませんので,他人が私道を通行するのを見つけた後に,障害物を設置して私道の通行を妨害することは,本来,違法な行為であり,認められません。一方,通行権不存在確認や通行禁止請求については,上記の通り,裁判所の判断も分かれており,私道所有者の請求が必ず認められるとは限りません。そのため,建築基準法上の道路としての私道の所有者としては,私道の出入口等の目に付く場所に「無断通行禁止」と記載した立て看板を設置するなどして,他人が無断で私道を通行しないよう,平時から対策を講じておくことが肝要です。