第121回 地方公共団体の内部統制体制の整備の方向
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企業においては,すでに,会社法と金融商品取引法に基づき,内部統制体制の整備(構築・運用)が図られているところであるが,近時,地方公共団体においても,その導入が検討されている。
地方公共団体の内部統制が具体的にどのような制度設計になるのかは,確定的ではないが,「内部統制による地方公共団体の組織マネジメント改革〜信頼される地方公共団体を目指して〜」(平成21年3月地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会報告,以下「研究会報告」)と「地方自治法抜本改正についての考え方(平成22年)」(平成23年1月26日総務省,「考え方」)が参考になる。
まず,「研究会報告」の企図する地方公共団体の内部統制は,金商法上の内部統制の考え方に大きく依拠し,内部統制の定義・目的,基本的要素については,企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の設定について(意見書)」(平成19年2月15日公表,以下「基準及び実施基準」)の考え方に倣っている。
「考え方」が企図する制度設計は,以下のとおりであり,外形上は会社法上の内部統制と同様の制度設計とも考えられるが,地方公共団体の内部統制体制の整備を監査制度の見直しの一環としてとらえていることが特徴的である。
[1] 地方公共団体の長は,条例の定めるところにより法令等の遵守等の目的を達成するための体制の整備等必要な措置を講ずる義務と,内部統制の実施状況を議会および住民に報告・公表する義務があるものとし,その旨を地方自治法に規定する。
[2] 地方公共団体の長は,次の事項に関する体制を構築するものとする。
・長および職員の職務の執行が法令等に適合することを確保すること。
・長および職員の職務の執行の有効性・効率性を確保すること。
・職務の執行に関わる情報の保存・管理
・リスクの管理等に関する規程の整備
・資産の保全と負債の管理の徹底
・内部統制の整備・運用の状況に関する報告・公表
・その他内部統制の整備・運用に関すること
[3] 地方公共団体の長は,その上で,定期的な管理職・職員に対する周知徹底,必要なモニタリング活動の実施,ルール・体制についての適宜見直し等を行い,PDCAサイクルとして機能させるものとする。
いずれにせよ,会社法上の内部統制は,会社の業務の適正を確保することを目的として会社の業務全般を対象とし,金商法上の内部統制は,財務報告の信頼性を確保することを目的として財務報告を対象としているのに対し,地方公共団体の内部統制体制は,基準及び実施基準の掲げる内部統制の目的(業務の有効性および効率性,財務報告の信頼性,事業活動に関わる法令等の遵守,資産の保全)自体を目的として地方公共団体の業務全般を対象としているように思える。なお,「研究会報告」からは,地方公共団体の内部統制の最終目的は,「住民から信頼される地方公共団体の実現」と考えることもできる。
筆者は,個人的には,地方公共団体の内部統制システムの設計は,基本的に会社法内部統制のように各組織の自律性を尊重したものとすべきであり,法律で詳細に制度内容を固めた硬直的なものとすべきではないと考える。そのことによる負担自体が,業務の有効性および効率性,事業活動に関わる法令等の遵守の目的達成を害してしまう危険性があると考えるからである。
加えて,地方公共団体が内部統制体制を整備する際には,企業の場合と共通するものであるが,以下の各事項に留意すべきであると考える。
(1) 首長ほかトップのリーダーシップ
トップがリーダーシップをもってその中心的役割を担わなければ,実効性のある内部統制体制の整備はできない。
(2) 内部統制体制の位置付け・整備の必要性についてのトップと職員の共通認識
トップと職員が,内部統制体制に関する以下の点について共通認識を持つことが重要である。内部統制は,最終的には役職員の意識の問題に帰着する。従って,職員もトップと同じく内部統制についての正しい共通認識を持つことが重要である。
ア 内部統制体制は,組織の業務の適正化のための「自律システム」である。
イ 内部統制体制は,業務の適正化により組織を存続させ組織に対する信頼を向上させる機能を有するものであるから,日常の活動の足かせになるものではなく,日常活動そのものである。
ウ 内部統制体制は,「自律システム」であるから,それを整備する主体は,外部の誰でもなく,組織のトップ・職員全員である。
エ 内部統制体制の整備の必要性は,トップと職員全員のために認められるものである。
(3) 身の丈に合った整備
内部統制体制は,組織の業務の適正を確保するための「自律システム」であるから,その整備にあたっては,組織の規模や特性に合致し,当該組織の事情を反映させた,いわば身の丈に合った使いやすいものとして整備する必要がある。すなわち,常に自律的に機能するシステムとなりうるものかどうかを念頭に置く必要がある。
内部統制体制の整備というと,各種解説書が記載しているような精緻なものを整備しなければならないものと考えがちである。しかし,いかに網羅的で精緻なものを整備しても,機能しなければ意味のないことである。
(4) トップ・職員全員参加型の内部統制体制整備
当該組織の身の丈に合った内部統制体制を整備するためには,総務等の一部担当者だけで整備するのではなく,トップ・職員全員が関与するのが効果的である。このこと自体が教育効果を持ち,いざという時に力を発揮する。
(5) 「PDCAサイクル」による運用
内部統制体制全体が組織の業務の適正を確保するための自律システムとして効果的に機能するためには,常に自律システムとして機能するように改善していく必要がある。そのためには,構築された内部統制体制(基本方針,組織体制,各種規程)を,その計画(Plan)に従って実行(Do)し,その実行された内容を評価(Check)し,不具合な点があれば改善(Action)するといういわゆる「PDCAサイクル」によって運用していくことが重要である。