第128回 株主提案権について
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- はじめに
株主提案権は、株主が株主総会において議題や議案を提案することができる権利で、公開会社である取締役会設置会社にあっては、6か月前より引き続き総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有する株主が提案権を行使することができるものとされています(以下、公開会社である取締役会設置会社を対象とします)。
近時、海外機関投資家や個人株主から経営方針に対する問題提起として行使されるなど提案権の行使は増加傾向にあるといわれています。昨年は、一個人株主から商号変更を含む多数の提案がなされたことが話題となりました。
そこで、今回は、株主総会シーズンを前に株主提案権の行使を受けた際の会社総務担当者の対応についてお話ししたいと思います。
- 提案権行使の要件
株主提案権を行使するためには、(1)6か月前より引き続き総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有する株主であること、(2)総会日の8週間前までに行使されることが必要です。
そこで、会社としては、まず、提案権を行使した株主が(1)の要件を充たしているかどうかをチェックする必要があります。この点、従前は、株主名簿の記載と照合して確認をする必要がありましたが、株券電子化の下では株主の株式保有状況は振替口座で管理されており、株主提案権のような少数株主権の行使しようとする株主は、振替口座簿の記録を会社に通知(この通知を個別株主通知といいます)して権利行使することとされていますので、会社は、振替口座簿の記録による個別株主通知に基づいて、その株主が継続保有期間を充たしているか、必要な議決権数を充たしているか判断することになります。これらの基準は、一人の株主では充たされなくても、複数の株主が集まることによって充たされる場合であっても良いので、共同提案がなされた場合には、共同の株主により要件を充たすかどうか判断しなければなりません。市民運動や労働運動の中で株主の共同提案としてなされることが考えられますので注意が必要です。
次に、(2)のチェックですが「8週間」は株主総会当日と提案日との間にまる8週間あることが必要です。なお、「8週間」という期間は定款により短縮することも可能であり、定款で期間を短縮している場合はその期間ということになります。また、前述したとおり振替制度の下では個別株主通知が少数株主権行使の対抗要件とされていますので、この8週間前までに個別株主通知がなされていることが必要であると考えられます。
それから、ほとんどの会社では、定款や定款の委任に基づく株式取扱規則等で株主提案権の行使を書面に限る旨規定しているのではないかと思います。そのため提案権が口頭でなされた場合には提案権の行使は不適法となります。
- 提案内容の確認
取締役会設置会社では株主総会決議事項は法令・定款で定められた事項に限られていますので、提案された議題が株主総会決議事項かどうか判断しなければなりません。この点、法定された事項でも定款で規定されておれば株主総会決議事項となるために、株主提案で、定款変更議案を提案し当該議題を株主総会決議事項としたうえで、株主総会議案として提案することは可能と考えられます。
議案が法令・定款に違反している場合は、当該議案が株主総会で可決成立したとしても無効な決議となりますので、そのような提案自体が不適法として拒否することができます。たとえば、剰余金の配当規制を超えた配当を求める議案などがこれにあたります。
- 多数の定款変更議案
上記3に関連して、定款には会社の本質に反する事項または公序良俗に反する事項以外の事項は記載しても良いと考えらえていますので、定款変更議案が定款変更によって新設、変更、削除すべき規定が具体的に記載されている限り適法な提案であり、それによって多数の株主が不利益を被ったり、また、変更等される定款規定が多数に及ぶ場合であっても適法であると考えられます。この点、昨年の株主総会においてある個人株主が58個の定款変更議案を提出したことに対し会社が株主提案権の濫用に該当するとして株主総会に付議しないとし、これに対し提出議案を株主総会の目的とすることなどを求めた仮処分事件の決定において、裁判所は、一般論として「株主提案権といえども、これを濫用することが許されないのは当然であって、その行使が、もっぱら、当該株主の私怨を晴らし、あるいは特定の個人や会社を困惑させるなど、正当な株主提案権の行使とは認められないような目的に出たものである場合には、株主提案権の行使が権利の濫用として許されない場合があるというべきである」(東京地裁決定H24.5.28。東京高裁決定H24.5.31も同旨)としました。しかしながら、同決定でも、会社経営陣に対する不満を背景とする提案が含まれていることは否定できないとしつつも、大部分は経営の透明化を図ることを目的とする議案であると評価できることや過去の株主総会において高い支持率が得られたものも含まれていたことなどを認定し個別判断において「権利濫用に当たるとまではいうことができない」と判断しているように、権利濫用といえるかどうかの判断は容易ではありません。
したがって、多数の定款変更議案が提案された場合には、後日、法廷で争われることも考えると、取り上げる方が無難ではないかと考えられます。
- 同一議案の連続提案の制限
また、提出された議案が3年以内に提案され、かつ、議決権の10分の1以上の賛成を得ないままに否決された場合には、その間は再提案できないものとされていますので、このチェックも必要です。
- 取締役会への付議
最後に、適法な提案として議題とする場合は招集通知に関する事項として取締役会で決議する必要がありますが、後日、提案株主から不採用を理由として総会決議取消訴訟が提起される可能性があることも考えると、提案を不適法とする場合も取締役会で判断しておくべきです。
- 最後に
総会担当セクションの皆様、いよいよあと2か月です。
くれぐれも健康に留意され、無事シーズンを乗り切られるよう心よりお祈り申し上げます。