第131回 傭船料不払の効果:自動的に未経過期間の傭船料の損害賠償も? – Reed Smith法律事務所セミナー(2013年5月23日今治)より
執筆者
本年5月23日,愛媛県今治市において,弊所今治事務所とロンドンのReed Smith法律事務所による共催セミナーが開催されました。Reed Smith法律事務所より,William Howard弁護士及びRichard Gunn弁護士が参加し,Howard弁護士からは,定期傭船契約における傭船料不払を理由とする損害賠償請求権に関する最新の判例について講演がなされましたので(執筆者にて通訳担当),以下のとおり,要約して報告いたします。なお,以下に関する文責は執筆者にあります。
さて,英国法上,定期傭船契約において,傭船料の不払があり,本船引揚条項に基づき本船が引き揚げられた場合の船主の損害賠償請求権に関しては,従来は,船主が未経過の傭船期間の傭船料を損害賠償として請求するためには,傭船者の行為が,repudiation (履行拒絶),すなわち,「もはや将来にわたり契約を履行しない」という意思を表明した,といえる程度のものでなければならない,と考えられていました。
しかし,このような考え方を前提とすると,では,具体的に何回の不払があればrepudiationに相当するのか,一部の不払があった場合はどうなのか,一旦不払が解消された後に再度不払があったらどうなのか,など,様々な点で疑義がありました。
また,海運マーケットが下落傾向にあるときには,代替として締結される新たな定期傭船契約の傭船料はより低額なものとなるケースも少なくなく,船主としては,早く本船を引き揚げて,傭船料が支払われない傭船契約を終了させ,新たな傭船先を探したいと考える一方,マーケットで回復困難な損害を(現)傭船者に請求するためには,repudiationありといえる程度まで不払が重なるまで本船引揚を待たなければならず,難しい判断を迫られることとなっていました。
ところが,2013年4月18日に判決が言い渡されたKuwait Rocks Co v AMN Bulkcarriers Inc, “The Astra”, [2013] EWHC 865 (Comm)において,英国High Court (Flaux判事)は,本船引揚条項及びAnti-technicality Clauseを含む本件の契約条項(修正NYPE1946フォーム)及び事実経過の下で,時間は契約の根本的な要素であると位置づけられていることから,傭船料支払義務はConditionであるとして,船主は,傭船者によるrepudiationの有無を問わず,未経過の傭船期間の傭船料を損害賠償として請求することができるとしました。
本判決は,傍論としてではありますが,傭船料不払と未経過傭船期間の傭船料の損害賠償請求権との関係について,具体的な契約条項及び事実関係の下で,repudiationの成否に関わりなく,当該損害賠償請求権を認めることとしたものであり,同請求権の発生要件を一定程度明確化したものということができ,船主にとっては,傭船料不払時の救済手段がより確実に認められることとなり,傭船者にとっては,一旦合意した傭船料を支払うことが困難となった場合の損害賠償リスクが高くなったものといえます。
本判決の趣旨を踏まえ,これまで以上に,船主には,定期傭船契約における傭船料支払及び本船引揚条項のドラフティング,並びに,傭船料の不払があった際の適時・適切な対応が求められ,傭船者には,契約締結段階での傭船料額の慎重な検討が求められることとなったものと思われます。
なお,上記の論点につきましては,弊所・田中庸介弁護士による第99回コラム「船舶引揚(withdrawal)に関する英国法上の問題点 – Reed Smith法律事務所セミナー(5月7日今治)より」にて,Repudiationを必要とするという従来の考え方について紹介されておりますが,本コラム記載の判例により,具体的な契約条項の内容及び事実経過によっては,Repudiationの有無を問わず,未経過期間の傭船料の損害賠償請求権が認められる可能性があることとなったものであり,今後の判例の動向が注目されます。