第139回 最高裁ついに違憲判決 —非嫡出子(婚外子)の相続差別は違憲—
執筆者
-
違憲判決
最高裁は,戦後9例目となる違憲判決をついに出しました。最高裁の大法廷に審理が回付されていましたので,過去の判例が見直されて違憲判決が出されるのではないかと予想されていましたが,そのとおりの結果となりました。国会は,早期の法改正を迫られることになります。
すなわち,最高裁大法廷は,以下のような判断を示したのです。遺産相続の際に,結婚していない男女間に生まれた子(非嫡出子,いわゆる婚外子)の取り分を,結婚している男女間に生まれた子(嫡出子,いわゆる婚内子)の半分とする民法の規定(民法900条4号但書)について,法の下の平等を定めた憲法14条に違反するという初めての判断を,裁判官全員の一致で示しました。具体的事例を一つあげて説明しますと,婚姻している夫Aと妻Bとの間に子供甲がいて,夫Aと女性Cとの間に子供乙がいて認知されているような事案で,夫Aが死亡したとき,乙の相続分は甲の半分と民法は規定しているので,この規定は乙を不当に差別するもので違憲かどうかという問題です。
-
法律の歴史と過去の合憲判決
1898年(明治31年),非嫡出子の遺産相続分を嫡出子の2分の1とする明治民法が公布されました。その後,戦後昭和22年,現行民法もそのまま2分の1とする規定を引き継ぎました。昭和54年,法制審議会で平等とする改正要綱試案を公表しましたが,時期尚早として改正が見送られ,その後,平成5年に東京高裁が違憲判決を出しましたが,最高裁では,平成7年(大法廷判決),その後12,15,16,21年と,合憲判決が続きました。平成7年の大法廷判決は,法律婚の尊重と非嫡出子の保護との調整を図ったものであり,合理的理由のない差別とは言えず,憲法14条の法の下の平等に反するとは言えないとしていました。
-
今回の判決は従前と何が変わったか
日本では,家族の形や結婚,家族に対する意識が多様化し,海外でも1960年代から相続差別廃止が進んだ状況を考えると(主要先進国で規定が残るは日本だけという状況),子が自ら選び,正せない事柄を理由に不利益を及ぼすことは許されないとの考えが確立されてきて,今回の違憲判決に変わってきたと考えられています。
-
他の相続に影響はないのか
本件訴訟で具体的に争いとなっている事案は,平成13年7月に開始した相続であり,最高裁は,遅くとも同時期当時,法の下の平等を定めた憲法に違反していたと判断しましたので,本来であればそれ以後の相続でこの2分の1の規定を適用した相続は,全て憲法違反で無効になると考えるのが論理的です。しかし,最高裁は,それではあまりに法定安定性がなく混乱が生じると考え,平成13年7月から今回の決定までの間に相続が開始され,遺産分割協議などで確定的となった他の相続に違憲判断は影響しないとして,混乱を避けました。そうすると,平成13年7月以降の相続で解決しないまま現在でも紛争中の遺産分割については,非嫡出子の方は,解決せずに待っていて良かったということになり,早々に解決してしまった非嫡出子の方は,残念ながら2分の1のままということになってしまいます。
ただ,確定的に協議ができたか否かの判断が微妙なケースは,新たな紛争が生じるおそれがあります。
-
他の制度への影響
今回の最高裁の判決は,その他現在議論されている,夫婦別姓制度(結婚しても夫婦が別の姓を名乗り続けること),同性愛の是非,女性の再婚禁止期間の合理性(女性だけ離婚後180日間再婚禁止)などの問題は,賛否両論対立して進んでいない状況ですが,今回の最高裁判決が,社会情勢や国民感情の変化を吟味していることから,それら問題の解決にも一石を投じることとなると思われます。今後の議論が注目されます。