任意後見制度の活用 -外国人にも任意後見人選任で安心の老後へ
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1 外国人の後見制度利用の必要性
昨今は、日本に居住する外国人も増え、日本において一生を終わる外国人も多くおられることだと思います。そのような現状を考えると、日本人と同じく外国人による後見制度の利用の問題は重要な問題になっています。
そこで、本稿では、外国人の日本における後見制度利用について検討することとし、特に任意後見制度の利用の意義を考えます。なお、法定後見や任意後見の制度の内容や相違点の解説については、本稿では省略させて頂きます。
2 外国人は日本の法定後見制度を利用できるか
⑴ 外国人が後見制度を利用するときにどの国の法律が適用されるか
どの国の法律が適用されるかについては、難しい言葉で言うと、いわゆる準拠法という問題なのですが、それは法の適用に関する通則法(以下「適用通則法」といいます。)という法律で決まっています。
後見は保護される者の能力(行為能力)に関する制度であるため、その者の属人法(その人の属する国の法律)によると考えられており、適用通則法第35条第1項では、この考えに従って、被後見人(保護される本人)の本国法によると定められています(英国人なら英国法など)。したがって、外国人は、原則として日本の法定後見制度を利用することはできず、自分の本国の法律で決まっている後見の制度を使うということになります。
しかし、それには2つの例外(日本法により後見人を選任できる例外)があります。
1つ目の例外は、保護される者の本国法によれば後見が開始されるべきであるが、後見事務を行う者(後見人)がいないときです(適用通則法第35条第2項1号)。
たとえば、未成年者の本国法によれば後見が開始されなければならないが、日本に後見人がいないときは、日本法により後見人を選任できます。後見人がいないときとは、いずれの国にも後見人がいない場合である必要はなく、どこかの国に後見人がいるけれども日本にはいないという場合でもよいとされています。すなわち、外国に後見人がいる場合であっても、同人が来日しないときは、被保護者の保護を貫徹するため、日本法に従い、後見人を選任する必要があると考えられています(東京家裁昭和49年3月28日審判)。
2つ目の例外は、適用通則法第5条に基づき日本において外国人のために後見開始の審判がなされたときです(適用通則法第35条第2項2号)。
これに対し、外国で後見が開始され、後見人が選任されたときは、本国法によることとなり、後見人の権限も本国法によって決定されます(東京高裁昭和33年7月9日判決)。
いずれにしても、外国人の本国法などの調査が必要で、日本の法定後見制度を利用するにはハードルは高いといえましょう。
⑵ 外国人は法定後見制度について日本の裁判所を利用できるか
次に、日本の法律が適用できても、日本の裁判所で裁判できなければ、あまり意味がありません。この問題は国際裁判管轄権という問題となります。
法定後見の場合は、上記2の⑴のように例外的にしか日本の法律が適用されませんが、日本の法律が適用される場合であるとしても、日本で裁判できますか、という問題です(なお、準拠法と国際裁判管轄権は、本来別個の問題ではあります。)。
後見開始の審判等(後見開始、保佐開始又は補助開始の審判)事件については、成年被後見人等(成年被後見人、被保佐人又は被補助人)となるべき者が日本に住所若しくは居所を有するとき又は日本の国籍を有するときに、日本の裁判所が管轄権を有する(適用通則法第5条)としていて、この要件を満たす場合は、日本の裁判所を利用できるということになります。
3 外国人は日本の任意後見制度を利用できるか
⑴ 外国人に日本の任意後見制度を適用できるか
日本の任意後見契約を外国人が日本において結ぶことができるか、という問題です。これができなければ、そもそも外国人が日本で任意後見制度を利用しようとしても無理です。
この点については、どの国の法律が適用されるかを規定している適用通則法には直接の規定はなく、考え方は2つあります。
第Ⅰ説は、任意後見契約は、契約の一種であるから、当事者が契約時に選んだ国の法律が準拠法となると考えて(適用通則法第7条)、外国人が自ら進んで日本の任意後見契約を締結した場合は、日本の任意後見制度を利用できるという考え方です。
第Ⅱ説は、任意後見契約も契約ではあるが、後見に関する契約であるから、後見に関する事項を定めた適用通則法第35条に従って本国法によるという考え方です。この考え方では、外国人は日本の任意後見制度を利用できないことになります。したがって、本国法に任意後見契約の規定がないときには任意後見契約を結ぶことはできません。ただし、日本の任意後見制度を利用できるというような規定(反致の規定:適用通則法第41条のような規定)が本国法にあれば契約は可能となります。
⑵ 外国人が任意後見制度について日本で裁判を受けられるか
上記2の⑵の法定後見制度で述べたのと同じ問題が、任意後見制度でも起こります。任意後見制度の国際裁判管轄について判示した裁判例はありません。
任意後見制度が代理権を授与する契約を基礎とするものと考え、本人又は 代理権を授与された者の居住国に管轄を認める見解や、日本において本人が任意後見契約を登記した場合には本人の財産所在地国たる日本に管轄を認めるべきとする見解があります。
4 外国人の任意後見制度の利用の意義
このように見てくると、外国人は、自分が認知症などになって、周りの方が日本の法定後見制度を利用しようとしても、原則利用できず例外的な場合のみ認められているという制度の限界があります。
そうすると、外国人は、自分の意思能力がまだある間に任意後見契約を締結して、将来任意後見制度を利用する方が、自分の知人や弁護士などに事前に任意後見人をお願いできることなど法定後見制度と比べ利用のしやすさという点もあることから、メリットが大きそうです。
実際、当職が扱っている外国人の任意後見制度利用については、公証役場で任意後見契約の締結ができて、それをもって任意後見契約の登記もできました。さらに、裁判所に任意後見の発効を求める請求である任意後見監督人の選任申立を行い、先日、裁判所からは外国人の任意後見制度の利用に関する点を指摘されることもなく、任意後見監督人の選任の審判があり、現在外国人の任意後見人として活動を開始しています。
したがって、上記3の⑴のような2つの異なる見解こそありますが、実務では外国人が任意後見人を選任することは可能であるといえます。
そうすると、繰り返しになりますが、完全に意思能力を喪失してからでは任意後見契約も締結できず、法定後見人を選任することもできない事態ともなりかねませんので、早めに任意後見契約を締結して、将来に備えるのが賢明ではないかと思います。一度、検討されては如何でしょうか。