第148回 宴会でのセクハラにご用心!
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さて,今月は新年会,また,来月〜4月頃までは,送別会,壮行会,歓迎会,お花見等々と,宴会に出席する機会が多くなる時期です。そこで,宴会の席でぜひともご注意頂きたいセクハラについて取り上げたいと思います。
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昨年末,第88回東町セミナー(「女性と労働法」)を担当した際,その中で,「久しぶり」にセクハラ問題について話す機会がありました。「久しぶり」・・というのも,私,平成11年からスタートした東町セミナーの第1回(「セクシュアルハラスメント入門」)を担当し,それ以来となる14年ぶりにセクハラ問題について話しをしたのですが,14年を経過してもなお,セクハラ問題はおさまるどころか,むしろ日々どこかで発生し,新聞やニュースで「セクハラ」を目にしない日の方が少ないくらいに,社会問題のひとつとしてその座を確立してしまいました。
都道府県労働局雇用均等室のセクハラ相談の件数は,平成24年度において約1万件ありました。セクハラ問題で悩む労働者が,都道府県労働局雇用均等室に相談する割合は決して多くないと思われますので,潜在的には,その何倍あるいは何十倍のセクハラ問題が起きているだろうと考えられます。
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そして,このセクハラ問題が起こりやすい最も危険な場所は,お酒をともなう宴会の席です。お酒を飲むと,(個人差はありますが)いい気分になり,口が軽くなってついつい普段なら言わないようなことを言ってしまったり,同席の人との距離を近しく感じてつい身体の一部(手・肩など含め)に触ったりした経験は,多くの人にあるのではないでしょうか(私もあります)。しかし,その酔った勢いでの発言の内容または触った体の部位や接触の態様がレッドラインを越えてしまい,それらを相手が性的に不快と感じたとき,一瞬にしてセクハラ問題は発生するのです。
実際,宴会の席でのセクハラが問題となった事件・判例は多数あり,最近では,裁判官が宴席で女性修習生の頬にキスをしたという驚くべきニュースもありました(ちなみに,この裁判官は,分限裁判で戒告の懲戒処分を受け,その後依頼退官し,裁判官としての職を失っています。)。
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セクハラ問題は,いったん発生してしまうと,当事者を悲惨な状況におとしいれます。被害者の受ける身体的・精神的打撃はいうまでもなく,その後長期間にわたり,心身に深刻な影響をもたらすこともあります。他方,加害者も,民事・刑事の責任が問われる場合があるのみならず,懲戒処分を受け,場合によっては職を失い(解雇・免職にはならずとも,自主退職する例は多いです。),さらには家族まで失う可能性もあるのです。よって,そのような事態を未然に防ぐセクハラ予防策が何よりも重要となります。生来的に悪質な思考傾向をもつセクハラ加害者の行為を予防することは難しいかもしれませんが,そうではない多数の人,もともとは善良な社会人で,良き家族の一員である人が,セクハラ加害者とならないよう予防することは,そう難しいことではないはずです。
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職場においてなすべきセクハラ予防策については,厚生労働省が作成している資料「事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です」(http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/danjokintou/dl/120120_01.pdf)の中に詳細に記載されています。雇用機会均等法11条により,セクシュアルハラスメント対策が事業主の義務となった今,おそらく,同資料を参考にある程度のセクハラ対策は講じている職場が多いと思います。ただ,セクハラ対策は,マニュアル通りのものを一度作っておしまいというものではなく,日々セクハラ対策を意識し,職場等の実態にあった対策を柔軟かつ継続的に実行していくことこそが有用です。
私が特におすすめしたい宴会でのセクハラ問題予防法は,宴会の冒頭に行われる上席の方からの乾杯のあいさつの中に,セクハラにくれぐれも注意するようにとの内容を常に毎回盛り込んで頂くことです。場がしらけるなどと思われるかもしれませんが,セクハラが起きてしまった場合の悲惨な事態・結果を考えれば,場がしらける程度のこと何でもないはずです。すぐに実践できる簡単なことで,かつ,予防策として有効だと思いますので,ぜひ,近く行われる宴会から始めてみて頂ければと思います。
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最後になりますが,このコラムを目にしてくださった皆さま,宴会の席はもとよりその他いかなる場所においても,自分のその言動を,心の中で下のふたつのチェックポイントにかけ,セクハラその他あらゆるハラスメントの加害者にならないようご留意頂ければと思います。
(1) その言動,あなたの大事な方(配偶者,子,親等)に見られても,恥じることはないですか?
(2) あなたの大事な方が,誰かからそのような言動を受けたとしても,何も感じるところはないですか?