第150回 民事再生手続における各種保全制度
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はじめに
民事再生手続開始の申立てを行った後,1週間〜数週間程度を経過した後に,裁判所より民事再生手続開始決定が出されることで,原則として,再生債権に基づく強制執行,仮差押え,仮処分等の手続が中止し(民事再生法〔以下,単に「法」といいます。〕39条),また,再生債権の弁済が禁止されます(法89条)。
しかし,民事再生手続開始の申立てを行えば,その事実が直ちにインターネットや新聞等で報道されることにより,債権者が直ちに債権回収に走ることが予想されるところ,上記のような強制執行等の手続の中止や弁済禁止の効力は,民事再生手続開始決定により初めて認められるものであるため,民事再生手続開始の申立てから同開始決定までの間,再生債務者は,債権者による債権回収に対し丸腰の状態になってしまい,再生という目的を達することが困難になるおそれが生じます。
そこで,民事再生手続開始の申立てから同開始決定までの間における再生債務者の財産保全のための制度として,法は,(1)弁済及び担保提供等の禁止の保全処分(法30条),(2)個別の中止命令(法26条),(3)包括的禁止命令(法27条),(4)担保権の実行としての競売手続の中止命令(法31条),(5)保全管理命令(法79条)等を定めています。
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各制度の概要について
(1) 弁済及び担保提供等の禁止の保全処分(法30条)これは,再生債務者が,申立日(の前日)までの原因により生じた債務について,弁済及び担保提供の禁止を命ずるもので,しばしば民事再生手続開始の申立てと同時に申し立てられ,申立日と同日付けで定型的保全処分として発令されます。
また,弁済禁止の例外として,「租税その他国税徴収法の例により徴収される債務,再生債務者とその従業員との雇用関係により生じた債務,再生債務者の事業所の賃料・水道光熱費・通信に係る債務,再生債務者の事業所の備品のリース料,10万円以下の債務」などが指定される例が多く見受けられます。
(2) 個別の中止命令(法26条)再生債権に基づく強制執行,仮差押え若しくは仮処分等が既になされている場合であって,再生手続開始決定が出るまでこれらの手続が進行することで再生手続に支障が出る場合に,これらの手続を個別に指定して,中止命令を発令してもらうことができます。
(3) 包括的禁止命令(法27条)(2) 個別の中止命令では再生手続の目的を十分に達成できないおそれがあると認めるべき特別の事情があるときは,再生債権に基づく強制執行や仮差押え等のすべての禁止を命ずる包括的禁止命令を発令してもらうことができます。
(2) 個別の中止命令が既になされた強制執行等を中止対象としていますが,(3)包括的禁止命令は,すでになされた強制執行等だけでなく,将来なされる強制執行等もその対象としているところにも,その有用性が認められます。
(4) 担保権の実行としての競売手続の中止命令(法31条)ア.民事再生手続においては,抵当権,質権等の担保権は一般に別除権として取り扱われ,担保権者は,再生手続の制約を受けることなく,手続外で自由にその権利を行使することが許されています(法53条)。
しかし,担保権の実行について,何らの制約もないものとすると,再生債務者の再生のために必要不可欠な財産についてまで担保権が実行され,再生が困難となることが考えられます。
そこで,再生債務者に担保権者と交渉し,別除権協定を締結する等により,担保権の対象となっている財産を継続して利用する機会を確保できるようにするために,担保権の実行手続を一時的に中止する命令についての規定が設けられました。なお,この中止命令は,再生手続開始決定の前後を問わず,発令されます。
ただし,この中止命令の発令要件としては,再生債権者の一般の利益に適合すること,及び担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがないことが定められていることや担保権者から意見聴取をすることが必要とされていることから,他の中止命令に比べ,発令されるハードルが高いといえます。
イ.いわゆる非典型担保(集合債権譲渡担保,集合動産譲渡担保,ファイナンス・リース等)について,法31条を類推適用することにより中止命令を発令することができるかに関して議論が分かれていますが,類推適用を認める見解が有力となっています(大阪高決平成21年6月3日,福岡高裁那覇支決平成21年9月7日等。)
類推適用を認める見解においては,集合債権譲渡担保権の実行手続は,第三債務者に対する実行通知等をなすことで完了することから,実行通知前の中止命令の発令が認められています。また,東京地裁破産再生部では,中止命令の発令前に担保権者からの意見聴取を行うと,直ちに第三債務者への実行通知が行われるおそれがあったため,発令直後に担保権者の意見聴取を行う実例もあり(東京地裁民事再生実務研究会「裁判実務シリーズ4 民事再生の手引」88頁),担保権者に不当な損害を与えない範囲内で,再生債務者の事業継続を支援する制度が設けられています。
(5) 保全管理命令(法79条)保全管理命令が発令された場合,裁判所が保全管理人を選任します。保全管理人が選任されると,再生債務者の業務の遂行及び財産の管理処分権は保全管理人に専属し,保全管理人が再生債務者の業務の遂行,再生債務者の財産の管理・処分及び再生手続開始決定までの間の再生手続上の権限を行使することになります。
もっとも,保全管理命令の発令要件は,「再生債務者の財産の管理又は処分が失当であるとき,その他再生債務者の事業の継続のために特に必要と認めるとき」と非常に厳格なものとなっており,実際に発令されることは少ないようです。
おわりに
以上のような制度を活用することで,民事再生手続開始の申立てから同開始決定までの間における再生債務者の財産を保全することができ,その結果,その後の民事再生手続をより確実に進めていくことが可能となります。
当事務所では,中小企業の民事再生案件その他事業再生案件を数多く手掛けておりますので,ご活用をご検討されている方は,お気軽にご相談ください。
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