第151回 新たな局面を迎える『反社会的勢力への対応』
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はじめに(「反社会的勢力への対応」を巡るこれまでの動向)
暴力団をはじめとする「反社会的勢力」に対する企業の対応については、以前は、「不当要求」に対する対応が主な問題点でしたが、(1)平成19年に政府が出した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(いわゆる反社指針)において、単に不当要求への対応にととまらず、企業が、正常な取引を含め、反社会的勢力との関係を「一切遮断する」ことを目指すことが明記され、また、(2)平成23年までに全都道府県において暴力団排除条例(いわゆる暴排条例)が施行され、東京都をはじめとする多数の暴排条例において、企業が暴力団の活動を助長するような取引をすることが禁じられました。
上記のような行政や立法の動きを受けて、企業においても、反社会的勢力との関係を遮断する旨を宣言する、あるいは、反社会的勢力に対応する部署を設置するなどの対応をとるようになったほか、取引先との間の契約において、自らが反社会的勢力でないことを表明保証させ、仮に反社会的勢力であった場合には契約を解除できるような条項(いわゆる暴排条項)を導入するようになるなど、反社会的勢力に対する体制を整備する動きが進んできました(これらの詳細については、当事務所コラム「反社会的勢力に対する企業の対応」「暴力団排除条項」「暴力団排除条例」をご覧ください)。
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判例の動向
前記のような社会の流れの中、近時、反社会的勢力への対応に関して、司法の場においても積極的な判断がなされるようになってきました。
例えば、ホテルで披露宴を開催する契約において、契約当事者が暴力団だったことが判明したとして、ホテル規約中にある暴排条項に基づき契約を解除したケースで、当該解除を有効なものと判断した裁判例(平成23年8月31日大阪地裁)、同様に、証券会社が、契約者が暴力団関係者だったことが判明したとして取引約款にある暴排条項等に基づき信用取引の解約をしたケースで、当該解約を正当なものとした裁判例(平成24年12月24日東京地裁)が出されるなど、暴排条項に基づいて取引を解消することを認める裁判例がみられるようになってきました。
また、契約や約款に暴排条項がない場合でも、建物の建築に関する建築請負契約において、発注者が暴力団との密接関係者であることが判明したとして建築会社が錯誤無効(民法95条)に基づく契約無効を主張したケースにおいても、建築会社の無効主張を認めた裁判例がみられるようになってきました(平成24年12月21日東京地裁)。
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みずほ銀行問題のインパクト
前記のような社会の動向の中、昨年起こったみずほ銀行の問題は、社会的に大きな注目を集めました。
この点、当時の報道においては、「メガバンクが暴力団に2億円の迂回融資していた」というようなことがクローズアップされましたが、少なくとも金融庁が問題視した点は、みずほ銀行が反社会的勢力に融資をした事実というよりも、多数の反社会的勢力との取引が存在することが把握してから2年以上にもわたって、当該反社的勢力との取引の防止・解消のため抜本的な対応を行っていなかった点にあります(その他、反社会的勢力との取引が多数存在するという情報が担当役員止まりになっていたという点もありますが、これは、反社会的勢力への対応の問題というよりも、コーポレートガバナンスの問題であるとされています。)。
みずほ銀行の問題を受け、全国銀行協会は、平成25年11月14日付リリース「反社会的勢力との関係遮断に向けた対応について」において、いわゆる反社テータベースを他業界と共有することの検討や、反社会的勢力のチェック体制の整備を行うことなどにより、反社会的勢力との関係遮断を徹底することを宣言し、また、金融庁も、同年12月26日付リリース「反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について」において、反社データベースの強化、事後的な反社チェック態勢の強化、反社との取引の解消の推進等の取組みを行うことを宣言しています。
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より積極的な反社会的勢力の排除へ
みずほ銀行の問題は、反社指針の制定、暴排条例の全都道府県における施行に続く、反社会的勢力への対応に関する第3のエポックメーキングな事件であるとされています。
また、みずほ銀行の問題をきっかけに、これまでも着実に進んできた反社会的勢力の排除の流れが、今後、金融機関を先頭として、より一層加速するとされています。
金融機関はもちろんのこと、企業としても、反社会的勢力との関係遮断が「社会の要請」であることを再度認識し、いわゆるCSRの問題として、これまで以上に積極的に対応していかなければならない時代が到来したと言えるでしょう。