第152回 子会社リスクの管理における悩みと実務対応
執筆者
私は,本年1月29日,日本CSR普及協会の2013年度第3回研修セミナーにおいて,「グループ内部統制に関する諸問題と実務対応〜子会社リスクの管理における実務上の悩みに応える〜」というテーマで,渡辺久弁護士をコーディネーターとして,竹内朗弁護士,株式会社マコル代表コンサルタント笹本雄司郎氏とともに,パネルディスカッションを行いました。そこでは,様々な有益な発言がありましたが,以下においては,私の発言内容を中心に,その要旨を紹介させていただきます。
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親子会社をめぐる近時の流れ
近時,子会社における不祥事発生によって親会社・グループ全体の企業価値を毀損してしまう事案が頻発しています。このことは,当然ながら,親会社にとって,子会社における不祥事発生を防止する必要性が高まっていることを意味しています。そして,経営実態としても,本格的グループ経営への移行がみられ,財務報告における単なる連結決算から,グループ全体を見渡した経営管理の必要性が高まってきています。
これらの流れを内部統制の観点からみると,子会社の管理は,グループ全体におけるリスクの管理(リスクの認識・評価・対応)の一環としてなされなければならないということになります。
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子会社リスクの管理における実務上の悩み
ところが,子会社リスクの管理においては,実務上,(1)親会社と子会社の組織・業務プロセス・構成員質等の相違や親会社の子会社ビジネスの実情の理解不足等による,親会社が子会社のリスク情報を把握できない悩み,(2)グループ全体の経営管理と子会社独自の方針・独立性との折り合いの付け方がわからないことによる,子会社管理手法の悩み,そして,(3)子会社の人材不足,海外子会社における文化の違い,海外不正リスク等への対応の仕方がわからないことによる,グループ全体の内部統制の整備(構築・運用)上の悩みがよく聞かれます。
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上記悩みに応える若干のアイデア
(1) 親会社が子会社を把握できない悩みについて
ア 親会社が子会社にリスク情報を速やかに報告させ,その情報伝達が途中で頓挫しないようにするために,子会社からのリスク情報の報告先として親会社・子会社の社外役員を含ませる伝達ルートを必須とすることが有益ではないかと考えます。日本の親子会社の人員構成の実態に照らすと,業務執行ラインにおける上位者,内部監査部門あるいは社内監査役に対する情報伝達は,情報伝達者および情報受領者双方の立場・思惑等によって,滞留してしまうことがままあることから,この滞留が起こりにくい伝達ルートを確保するための方策です。
もちろん,このことが有効に機能するためには,親会社・子会社の社外役員には,グループ内部統制の重要性についての認識を高め,「社外役員は,グループの業務の適正を確保するための制度的担保として,最もふさわしい権能と責務を持つ立場にある」というグループ内部統制における自らの役割の重要性について十分に自覚し,親子会社それぞれの内部意識にとらわれず,グループ全体の観点から判断し行動していただくことが重要となります。そのためにも,社外役員には,たとえクビになっても,「ならぬものは,ならぬ。」と言える人の採用が重要であると思います。
イ 親会社・子会社の監査役・内部監査部門間の情報交換システムを常設したうえ,内部監査部門の監査実施結果は必要的報告事項として,子会社のリスク情報を親会社にあげることを常態化することも有益ではないかと考えます。
なお,会社法施行規則105条5項は,「監査役は,その職務の遂行に当たり,必要に応じ,…当該株式会社の親会社及び子会社の監査役その他これらに相当する者との意思疎通及び情報の交換を図るよう努めなければならない。」と規定しており,積極的な情報交換を促す法的根拠が存在します。
ウ なお,上記のアおよびイ記載の事項は,親会社の業務執行ラインによる子会社に対する管理監督機能を軽視するものではなく,子会社は独立した組織であることから,この機能が直接的には働きにくいという内在的制約があることを認識して,これを補うための方策として述べるものです。
(2) 子会社管理手法の悩みについて
ア 日本監査役協会は,平成25年11月7日付「企業集団における親会社監査役等の在り方についての提言」において,親会社の監査役監査においては,「親会社における子会社会計数値の検証のための体制(特に経理部所の関与)」や「売上高・債権残高・在庫等主要科目及び主要財務指標の推移の検証及び運用状況」についての確認が必要であるとしていますが,子会社の会計数値を理解することができる者により,客観的に異常数値の発現や継続を認知し,その裏に隠れた子会社の不正を探索する意識を明確に持つことが重要であると思います。
イ 子会社における不祥事発生の原因として,構築された内部統制システムの運用や改善の障害となる人物が存在するということがあります。本来であれば,かかる人物は更迭すべきであったにもかかわらず,過去の実績・子会社内での立ち位置(人間関係)・性格等から異動させることができないまま経過し,不祥事に至る例が多くみられます。これらの広い意味での情実人事を避けるためには,決裁規程等社内ルールの違反回数の上限を定めたり,改善命令への対応期限を定め,これを超えた場合には,自動的職務から外れるというルールを策定し運用したりするのも一つの方法と思います。
(3) グループ全体の内部統制の整備(構築・運用)方法の悩みについて
ア 海外子会社の不祥事では,コンプライアンス違反や経理関係の不祥事が多いと思います。パターンとしては,(1)親会社からの業績拡大のプレッシャーが強く不正な経理処理を行う例があります。これについては,過度の業績プレッシャーを与えないことが重要です。つぎに,(2)知識不足や小さなミスで生じた会計処理や債権管理上の不備が,現地の事情で解消されずに放置され,結果的大きな不祥事につながる例(現地での債権回収のための法的手続が困難であるにもかかわらず,安易に考えて貸込んだ結果泥沼化した事例)や(3)現地の法的規制の理解不足によるコンプライアンス違反(セクハラ・汚職)がよく見られます。これらについては,地理的・時間的・言語的制約を解決するために,親会社と意思疎通のできる現地の弁護士・会計士等の専門家によるサポート・監視が有用だと思います。
イ グループ内部統制の重要性に鑑みれば,グループ内部統制の一環としての子会社の内部統制システムの構築・運用を効果的に行うために,リスクの高い子会社に,親会社の内部統制システムの構築・運用に関与し習熟している者を異動させ,成果をあげれば,必ず,親会社で昇進させるというような人事慣行を定着させるということも考えてよいと思います。
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