第156回 企業の優先株等の処理が加速−経営改善に目途立てる−
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はじめに
最近,新聞では,企業が,景気が良くなってきたのを背景として,以前発行していた優先株を処理する動きが目だってきたと報じられています。そこで,今回は,優先株とは何か,何故優先株を発行したのか,又今回何故処理するのかを,考えてみることにします。
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優先株とは
優先株とは,投資家の間で通常売買される株式である「普通株」(経営に参加したり,配当を受け取ったりできる権利がある株式)とは違い配当金を優先的に受けることができる又は会社が解散したときに残った財産を優先的に受け取れるなど,投資家の権利の内容が文字どおり優先的になっている株式であり,配当が優先的である反面,株主総会の議決権がない場合が多く,いわゆる種類株と呼ばれるものの一種です(会社法108条1項1,2号)。
なお,種類株とは,権利の内容の異なる株式のことで,会社は,種類株を発行することができると定められています(会社法108条)。剰余金の配当,残余財産の分配又は議決権の有無等の違いを設け多様な種類の株式を発行することができることになっています。このような種類株の発行を可能とすることにより,下記で述べるように資金調達手段の多様化,容易化等の効果があるのです。
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優先株発行の背景
不景気のときには,企業は資金調達はしたいが,通常の株を大量発行してしまうと,株主総会での議決権の数に影響するので,会社支配の観点からは不安になってしまいます。そこで企業としては,議決権がない株式ではあるが配当は優先的にするという優先株を発行したい,ということになります。一方投資家は,会社の議決権にはあまり関心がなく,むしろいくら配当があるかということに興味がある場合が多いので,企業の思いと利害が一致し,優先株を発行することができるのです。まさに,社債の代替物として利用されているのですが,企業にとっては,優先株で調達したお金は資本金となり,自己資本比率を向上させることができますので,銀行のように資本を増やしたい時には,特に便利です。
余談ですが,優先株とは逆の発想で,最近議決権種類株を用いた我が国初の上場事例ということであるケースが紹介されています。それは,創業家系経営陣の支配力維持を図るために,普通株の10倍の議決権を有する種類株を創業家が保有する仕組みを作っているのです。優先株とはまさに逆の発想なのですね。
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優先株処理の背景
経営再建企業が優先株を発行する際は,一定期間後に普通株に転換できるなどの条件を付けている場合が多いといえます。そして,優先株では,配当を優先するあまり年利3%〜5%の配当等などを続けたり,配当が普通株の125%の上,普通株が無配でも15円配当を保証するというような内容のものがあり,資金調達のため株式発行当時としては仕方なかったという側面もありますが,会社としては,配当が負担になってきたのは事実です。そこで,景気が回復してきて資金余力も出てきたこの時期に,普通株に転換して負担を減らしておこうという思いがあります。又株価水準が低い状態で普通株に転換すると,普通株の数が大幅に増えてしまい,他の普通株主にとって1株あたりの価値が大きく低下する原因になりますので,株価が上昇している現在が普通株に転換する絶好の時期かもしれません。又,業績回復で資金のある会社は,優先株を自ら買い入れて消却する(株を消滅させる)と,1株あたりの価値が低下するという心配はなくなります。
このように,経営悪化時の「負の遺産」の処理が進んでいるのです。優良企業の景気が良くなっている現れですね(一方経営状態の悪い企業は今でも優先株で資金調達をしています。)。今後は,中小企業も含め,景気が広く良くなって行くことを期待したいものです。