第160回 「その他一切の…」条項と "ejusdem generis rule"
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売買基本契約,定期傭船契約などの事業者間契約においては,損害賠償条項,オフ・ハイヤー条項などに,以下のように,具体例がいくつか続いた後に「その他一切の…」というような文言が用いられることが少なくありません。
例1)「商品に欠陥があったときは,売主は,買主に対し,当該欠陥品の返送,処分に要する費用,代替品の購入代金その他一切の損害を賠償しなければならない。」
例2)"In the event of loss of time from … detention by the arrest of the Vessel, or detention by average accidents to the Vessel or cargo … or by any other similar cause preventing the full working of the Vessel, the payment of hire … shall cease for the time thereby lost." (NYPE 1993)
これらの条項は,契約締結時に将来起こり得る損害・事象等をすべて想定して記載するのは現実的でないことから,典型的な例を示した上で,それらに該当しないような事柄についても当該条項の適用場面となりうることとして,当該条項の適用範囲をより広範にすることを目的とするものです。
他方で,適用範囲を広げるといっても,拡張される範囲についての考え方は様々であり,この点をめぐって契約当事者間で紛争となることも珍しくありません。
例えば,例1)では,欠陥品が買主からさらに流通した結果としての買主の信用損害,消費者からのクレーム対応のために手配したコールセンターの費用等を売主が賠償すべきか,例2)では,海賊により拿捕された場合にもオフ・ハイヤーが成立するか,というような形で紛争として顕在化します。
このような場合,「その他一切の損害」,"any other similar cause" などの文言(「包括条項」「バスケット条項」などと呼ばれることがあります。)がどのような事柄までカバーしているかは,その契約の準拠法(どこの国の法律が適用されるかという問題)によって判断されることとなります。
我が国の法律の下では,例えば,例1)の条項では,一般論としては,「その他一切」の前に列挙された費目に類似する,もしくは,それらの費目と合理的な関連性のある費目が,「その他一切の損害」に当てはまるものと考えられ,より具体的な判断については,個々の裁判官・仲裁人に委ねられることになるでしょう。
多くの海事関連契約が準拠法として指定する英国法の下では,例2)のような条項には,ラテン語で「同種/同類の」との意味を有するラテン語のフレーズを用いた "ejusdem generis rule"(エイュスデム・ジェネリス・ルール)との原則が適用され,それ以前に列挙された事柄と同種・同類の事柄が捕捉されることとなります。日本法におけるのと同様に,具体的な事柄が「同種・同類の」ものに含まれるかは,裁判官・仲裁人の判断に委ねられることとなります。
これに関して,英国の裁判所では,海賊による船舶の拿捕が上記例2)に似た条項("similar"は削除)にいうオフ・ハイヤー事由に該当するかが争われ(Cosco Bulk Carrier Co. Ltd. v Team-Up Owning Co. Ltd. (the "Saldanha") [2010] EWHC 1340),裁判所は,"ejusdem generis rule"を適用した上で,海賊による拿捕は同条項で列挙されている事由と同種・同類ではないとして,オフ・ハイヤーの成立を否定しました。
もっとも,裁判所は,判決の中で,"any other cause"の後に "whatsoever" との文言を挿入すれば,同種・同類との限定が解除され,本船の完全な稼働を妨げる事情(preventing the full working of the Vessel)の一切がオフ・ハイヤー事由に含まれることになるだろう,と示唆しました。
"any other cause" も "any other cause whatsoever" も,"ejusdem generis rule" を意識せずに邦訳すると差異はわかりにくくなりそうですが,"whatsoever"というわずか一単語が入ることにより条項の意味が大きく変わるというのは,英文契約の興味深いところであり,同時に,怖さでもあると思います。
話を戻しますが,「その他一切の…」というような包括的な文言があったとしても,その範囲については,いろいろな解釈の可能性があります。契約書のドラフティングに関与される方も,締結された契約に関する紛争の対応を検討する方も,このような可能性も念頭に置き,業務に当たっていただければと思います。