第170回 香港インターン報告
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2014年10月27日から11月7日までの2週間,日弁連と香港律師会のインターンシッププログラムの第1期インターンとして,香港の法律事務所にて研修をしてきましたので,その内容を報告します。
私は,ロンドンでの留学・研修から帰国した2012年以降,海事法・運送法・国際取引法の案件を中心に,英文契約や英語でのコミュニケーションを要する案件の取扱が増加するとともに,現地同行を含む企業の海外進出の支援業務等も行っており,具体的な案件の関係先も,東アジア・東南アジアから中東,欧州,北米,アフリカ等と多岐にわたってきています。そのため,海外における紛争解決手続の実態や,ときに協働し,ときに相手方ともなる海外の弁護士の仕事ぶり等に触れる機会があればと考えていたところ,上記インターンシップ派遣の機会に恵まれ,以下のとおり,またとない貴重な経験を積むことができました。
世界有数の国際都市である香港は,アジアにおける国際紛争解決手続の一大中心地であり,HKIAC(香港国際仲裁中心)の仲裁は,国際商取引契約(特に中国企業を相手方とするもの)において第三国の仲裁機関として指定されることも多く,また,世界的な海事法律事務所の多くが拠点を構える,海事法分野における重要な地でもあります。
私は,民事・商事の紛争案件・契約案件を幅広く取り扱うW.K. To & Co法律事務所(杜偉強律師事務所)に配属され,主に,訴訟・仲裁案件を取り扱う弁護士とともに執務し,記録を検討した上で裁判や打合せに同行し,論点について議論する等したほか,契約書作成業務を担当する弁護士とも,具体的な英文契約書を題材に,諸条項のドラフティングについての意見交換等を行ってきました。
なお,英語でのコミュニケーションにやや難があるが日本語が上手な第三国のクライアントとの打合せに同席した際には,クライアントと研修先弁護士との間で,日本語を介した通訳を務めたこともありました。
また,私が派遣された時期は,ちょうど反体制デモの真っ最中でしたが,高等法院もあるアドミラルティ(金鐘)地区のデモの現場は,車両の出入りは阻止されていたこともあってか,至って平穏であり(テントに独自の住所を掲示したデモ参加者の下には郵便が届く,というような話も聞きました。),また,街角では,警察側支持者がテーブルと椅子を並べ,秩序立って演説を行い,署名活動を行っている様子を目の当たりにするなど,渡航前にテレビ等を通じて感じていた危険な雰囲気とは全く異なる,成熟した市民らの活動の状況も体感することができました。
ところで,ご承知の方も多いことと思いますが,香港の法曹資格は,英国と同様に,主に契約書作成や訴訟外の交渉等を担当するソリシター(Solicitor)と,主に訴訟・仲裁等での口頭弁論を担当するバリスター(Barrister)に分かれています。今回のインターンシップは,ソリシターの事務所に派遣されるプログラムでしたが,裁判や打合せへの同行等を通じて,紛争解決手続の進め方,紛争案件についてのソリシターとバリスターの役割分担,両者の協働の仕方などについて具体的なイメージを持つことができました。
英文契約のドラフティングに関しては,英語を母国語のように駆使する配属先の弁護士(中国系)といろいろ議論を重ねる中で,私にとって参考となるような条項・言い回しなどにも多く触れる機会がありましたが,逆に私の意見になるほどと耳を傾けてもらうような場面も少なからずあり,国際都市である香港の専門弁護士との比較を通じて,自分自身の英文契約のドラフティングのレベルを確認することができました。
また,配属先事務所に加え,世界各地に拠点を有する法律事務所や,現地で活躍している日本人弁護士とも事務所訪問や会合を重ね,情報交換をしてまいりましたので,当事務所として,香港に限らず,具体的な案件や契約の内容に応じ,より適任の弁護士をクライアントの皆様にご紹介する体制が整ってきております。
海外の海事弁護士と当事務所とで継続的に共催しております海事セミナーに加え,本年,縁が深くなりました香港で開催されるIPBA(主に環太平洋地域の弁護士による国際会議)や,その他の機会における海外弁護士とのさらなる交流を通じて,そのような体制をより充実したものにすることができるものと確信しております。
今後も,神戸,関西,さらには中国・四国・九州のクライアントの皆様に,海事法,運送法,国際取引法の案件や,英文契約書の作成・締結交渉,英語でのコミュニケーションを要する案件について,より高度な法的サービスを提供してまいりたいと思います。