理事会設置一般社団法人における社員総会
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Ⅰ はじめに
一般社団法人には、最高決議機関としての社員総会があることから、社員総会においてあらゆる事項を決議することができると考えてしまうかも知れません。しかしながら、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(以下「法人法」といいます。)は、理事会が設置されている一般社団法人は、多数の社員がいることが多く、法人に関するあらゆる事項を社員総会の決議事項とすると、法人の事業運営に係る意思決定に機動性を欠くことになるため、業務執行に関する意思決定は理事会に委ね、社員総会の決議事項を限定しています。
本稿においては、この観点から、Ⅱにおいて、理事会設置一般社団法人における社員総会と理事会の権限の概略を説明したうえ、Ⅲにおいて、理事会設置一般社団法人の社員総会の総会招集権・提案権について説明することとします。
Ⅱ 理事会設置一般社団法人における社員総会と理事会の権限
1 理事会設置一般社団法人における社員総会の権限
理事会設置一般社団法人における社員総会の権限は、どのように限定されているかというと、下記①および②の事項に限り決議することができるとされています(法人法35条2項)。定款で定められた事項を社員総会の決議事項として認めたのは、個々の法人の事情に応じて、法人法に定められた事項のほかに社員総会の決議事項の設定を委ねるのが合理的であるからです。
① 法人法に定められた事項
② 定款で定められた事項
なお、定款で定めたとしても、社員総会は、社員に剰余金を分配する旨の決議をすることはできません(法人法35条3項)。また、法人法の規定により社員総会の決議を必要とする事項について、理事、理事会その他の社員総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは無効とされています(同条4項)。
2 理事会設置一般社団法人における社員総会の決議事項
理事会設置一般社団法人における社員総会の決議事項は、普通決議事項と特別決議事項に分かれます。
(1) 普通決議事項
定款で別段の定めがある場合を除き、総社員の議決権の過半数を有する者が出席し、出席した当該社員の議決権の過半数で決議することができる事項です(法人法49条1項)。具体的には、以下のとおりです。
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- 総会提出資料調査者、業務等調査者の選任(法人法55条)
- 理事・監事・会計監査人の選任(法人法63条)
- 理事の任期短縮(法人法66条)
- 理事・会計監査人の解任(法人法70条1項)
- 額について定款規定がない場合の理事の報酬等の額(法人法89条)
- 額について定款規定がない場合の監事の報酬等の額(法人法105条1項・2項)
- 会計監査人の出席を求める決議(法人法109条2項)
- 責任免除理事への退職慰労金等支給の承認(法人法113条4項)
- 計算書類の承認(法人法126条2項)
- 基金の返還(法人法141条1項)
- 清算人の選任(法人法209条1項3号)
- 定款規定がない場合の残余財産の帰属(法人法239条2項)
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(2) 特別決議事項
次に掲げる総社員の半数以上であって、総社員の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上にあたる多数で決議しなければならない事項です(法人法49条2項)。
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- 社員の除名(法人法30条1項)
- 監事の解任(法人法70条1項)
- 理事・監事・会計監査人の責任の一部免除(法人法113条1項)
- 定款の変更(法人法146条)
- 事業の全部の譲渡(法人法147条)
- 解散(法人法148条3号)
- 継続(法人法150条)
- 合併契約の承認(法人法247条、251条、257条)
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3 理事会の権限
理事会の権限は、上記の社員総会の権限として定められている事項を除き、①法人の業務執行全般の決定に及び(法人法90条2項1号)、加えて、②理事の職務執行の監督(同項2号)、③代表理事の選定・解職(同項3号)が定められています。
4 理事会による重要な業務執行の理事への委任の禁止
理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することはできません(法人法90条4項)。
① 重要な財産の処分および譲受け
② 多額の借財
③ 重要な使用人の選任および解任
④ 従たる事務所その他の重要な組織の設置、変更および廃止
⑤ 理事の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他一般社団法人の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
⑥ 役員等の損害賠償責任の免除
Ⅲ 理事会設置一般社団法人の社員総会の招集権・提案権
以上を踏まえて、次に、理事会設置一般社団法人の社員総会の招集権・提案権の説明をします。なお、以下における各用語の意味は、次のとおりです。
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- 議題提案権:社員総会の目的として一定事項(議題、例えば定款変更)を提案する権利
- 議案提案権:議題の範囲で決議事項(議案、例えば定款第○条改訂)を提案する権利
- 議案要領の通知請求権:議案の要領を他の社員に通知するよう理事に請求できる権利
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1 原則
理事会設置一般社団法人の社員総会における社員総会の招集権・議題および議案の提案権は、原則として、理事会にあります。そして、その例外は、下記2ないし4のとおりです。
(1) 招集権
理事会が日時および場所、議題を決議して招集します(法人法36条3項、38条2項)。
(2) 議題提案権
議題提案権は、理事会にあります(法人法38条1項2号)
(3) 議案提案権
議案提案権も、理事会にあります(法人法38条1項5号、法人法施行規則4条3号)。
2 例外①-社員の理事に対する社員総会の招集請求権
総社員の議決権の10分の1(5分の1以下の割合を定款で定めた場合は、その割合)以上を有する社員は、理事会に対し、社員総会の目的である事項および招集の理由を示して、社員総会の招集を請求することができます(法人法37条1項)。
3 例外②-社員による社員総会の招集権
(1) 招集権
理事会が上記2の請求に応じなかった場合、上記2の請求をした社員は、裁判所の許可を得て、日時・場所・議題を決定して社員総会を招集することができます(法人法37条2項、38条1項)。なお、この場合も、前記Ⅱの1の社員総会の権限の制限に服することに注意する必要があります。
(2) 議題提案権
議題提案権は、上記2の請求をした社員にあります(法人法38条1項2号)。
(3) 議案提案権
議案提案権も、上記2の請求をした社員にあります(法人法38条1項5号、法人法施行規則4条3号)。
4 例外③-社員の議題提案権、議案提案権、議案要領の通知請求権
(1) 議題提案権
総社員の議決権の30分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する社員に限り、理事に対し、一定の事項を社員総会の目的とすることを請求することができます。この場合において、その請求は、社員総会の日の6週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までにしなければなりません(法人法43条2項)。
(2) 議案提案権
社員は、社員総会において、社員総会の目的である事項につき議案を提出することができます。ただし、当該議案が法令もしくは定款に反する場合または実質的に同一の議案につき社員総会において総社員の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合は、この限りではありません(法人法44条)。
(3) 議案要領の通知請求権
総社員の議決権の30分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する社員に限り、理事に対し、社員総会の日の6週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、社員総会の目的である事項につき当該社員が提出しようとする議案の要領を社員に通知することを請求することができます(法人法45条)。
以上