第204回 地域ブランドの保護と地理的表示保護制度
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はじめに
「但馬牛」,「神戸ビーフ」,「夕張メロン」,「下関ふく」,「伊予生糸」・・・どれも日本が誇る各地の名産です。これらは全て,地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度という地域ブランド保護制度の下で現在登録されている産品です。
今回は,このGI保護制度とその法的なメリットについてお話したいと思います。
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GI保護制度とは
GI保護制度は,平成27年施行の特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)に基づき導入された,農林水産物等のブランド保護のための制度です。現時点で,冒頭に挙げた産品を含め計30品目が登録を受けており,登録により取引数の増加や価格上昇等の効果が現れているようです(制度や申請手続等の詳細は,農林水産省のホームページに分かりやすく掲載されています。)。
地域ブランド保護に関する制度としては,商標法上の地域団体商標制度がありますが,両者は全く別の制度です。GI保護制度の主な特徴は,(1)一定期間(概ね25年間)継続して生産された農林水産物等が対象である点,(2)品質基準の登録等により登録産品の品質が制度的に担保されている点(需要者のメリット),(3)登録者は訴訟等の負担なく,自分たちのブランドを守ることが可能という点(登録者のメリット)にあります。
以下では,この(3)の点の具体的な意味について述べたいと思います。
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行政規制というメリット
(1) 従前の地域ブランド保護の法的手段
例えば当該地域ブランドの基準を満たさない産品が当該地域ブランドの名称を冠して販売されていた場合,関係者がとり得る法的手段としては,当該違反者に対し,民法の不法行為に基づく損害賠償請求や不正競争防止法に基づく差止請求をすることが考えられます。また,当該地域ブランドにつき前述の地域団体商標制度などの商標登録をしている場合には,商標法に基づく差止請求や損害賠償請求をすることも可能です。
この場合,いずれの手段も違反者に対して自ら請求(場合によっては訴訟提起)をする必要があるので,決して小さくないコスト(情報収集費用,弁護士費用など)がかかります。
(2) 新たな保護手段
このような状況を改善するために,GI保護法では,以下のような行政による取締規定が定められました。
[1] 誰でも表示の不正使用等を通報することができ,かつ,通報を受けた地方農政局等は,必要な調査を行い,違反が確認できた場合,違反者に対し表示の除去等の措置命令を発令しなければなりません(法35条,法5条)。
[2] 措置命令に従わない場合,違反者には刑罰が科せられます(法39条,40条,43条)。
したがって,登録者は,前述したような法的手段をとる必要がありません。GI保護制度の登録にかかる費用は9万円(登録免許税)のみでその後の更新手続も不要であることにも鑑みれば,登録者としては非常に低コストでブランド価値を保護できるといえ,この点でGI保護制度は非常に画期的な制度だと思います。
今後の期待
GI保護制度は対外的な輸出促進や国際規範の発展を背景に構築された制度ですが,海外でのGI保護の問題については,平成28年12月のGI保護法の改正により一定の手当がなされたものの,その内容は,国際約束により国家間でGIの相互保護を図るもの(法23条以下)というもので,未だ実効的な救済手段が整備されたとはいえない状況です。今後は,全世界的に日本の地域ブランドが保護されるような制度の整備が期待されます。
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