動産・債権譲渡担保の有効活用
執筆者
平成10年10月1日に「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」が施行され、また、同法の改正法である「動産及び債権の譲渡に関する民法の特例等に関する法律」が平成17年10月3日に施行されたことに伴い、ABL(Asset Based Lending、在庫動産・売掛債権等の流動資産担保融資)が活発に利用されるようになりました。
これに伴い、当事務所でも、本契約登記型の譲渡担保契約書の作成だけでなく、破産管財人側での本契約登記型の債権譲渡担保への対応、債権者側での破産事件での同担保の実行、民事再生事件における同担保を別除権とする別除権協定による債権者側での回収等、様々な事案を処理させていただいております。また、このような担保の存在をご存じでないクライアントの方もおられますので、説明すると、その利用を希望され、事案を処理させていただく場合もあります。
実際、土地建物等、旧来担保として認知されてきた担保目的物がない場合でも、本契約登記型の債権譲渡担保を設定することにより、新規に取引をすること等が可能となるため、かかる意味では債権者・債務者(担保権設定者)双方にとって有用な担保であると思われます。
しかし、近時、動産・債権譲渡担保にとって重要と思われる判決が複数出されてはいるものの、各種事案の解決には十分なものとはいえず、実際は、担保権実行の場面では「出たとこ勝負」の感があり、担保として安定的なものとはいえないとの印象を強く持っております。
たとえば、将来債権譲渡担保についてだけみても、
- 「(1)法的倒産手続開始後に発生する債権に対する将来債権譲渡担保の効力、
- (2)((1)に関連して)本判決〔最一判平成19・2・15民集61巻1号243頁:国税の法定納期限等以前に、将来債権を目的とする債権譲渡担保が締結され、第三者対抗要件が具備されていた場合には、当該債権は、国税徴収法第24条第6項の「国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている」ものに該当するとした判例〕の射程、
- (3)前掲最一判平成18・12・21〔質権設定者の担保価値維持義務を破産管財人が承継することを認めた判例〕の射程、
- (4)譲渡担保権者との担保変換契約ないし別除権協定の締結等の和解的な解決に努める必要性、
- (5)かかる和解的解決に至らなかった場合の管財人ないし再生債務者の目的債権の回収権限や回収金使用の可否、
- (6)将来債権に譲渡担保権が及ぶとした場合の更生手続の財産評定における評価、
- (7)公序良俗無効論による担保権の制約、
- (8)否認権の行使による担保権の制約、
- (9)担保権消滅請求の譲渡担保への類推適用による担保権の制約、
- (10)((1)に関連して)集合動産譲渡担保の法理(たとえば固定化の法理〔流動する集合動産の譲渡担保の構成要素を確定すること〕の集合債権譲渡担保への適用の可否など・・・の点につき、今後の担保実務、倒産実務および判例・学説の展開を注視する必要がある。」
と指摘されるように(粟田口太郎「動産・債権譲渡担保の最新判例分析と法的問題点」事業再生研究機構編『ABLの理論と実践』216頁(商事法務、2007)。ただし、脚注は省略し、〔括弧〕内は筆者記載)、未解決の問題が山積している状態となっております。
当事務所としても、今後の担保実務、倒産実務の動向、学説・判例の展開をキャッチアップし、日々の案件処理に反映させるよう努めておりますが、現時点では、種々の未確定要素があることをクライアントの方に説明させていただき、一定のリスクが存在することを理解していただいたうえで、各案件を処理させていただいているのが実情です。
とはいえ、動産・債権譲渡担保に上記のような問題点もあることを理解して利用するのとそうでないのとは大きな違いがあると考えますし、また、実際の回収の場面では、各種判例・学説の理解、倒産法の知識等が必要不可欠となります。当事務所が関与した案件で、実際に本契約登記型の債権譲渡担保により回収できた案件も存在するところですので、担保権の設定等、早期の段階からご相談いただければと存じます。