反対尋問で勝訴を勝ち取る醍醐味
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裁判では、書面、いわゆる書証が重要な役割を担っており、証明する証拠として書面があれば、かなり有利に、すなわち勝訴に結びつきます。しかし、自分に有利な重要な書面がないことがしばしばあり、そのような場合は証人尋問の結果の行方が裁判の勝敗を左右することになります。
証人尋問は、まず自分側の証人の尋問(主尋問といいます)が行われます。これはそんなに心配要りません。最近では、陳述書と言って予め証言する内容を書面で裁判所に提出することがほとんどですから、極論すれば、証人は主尋問では、この陳述書のとおりですと言うだけでいいのです。又、事前に自分側の証人との打合せを入念に行いますので、いわゆるリハーサルどおりに進めば問題ありません。ただ、準備不足のため、自分側の証人の主尋問をスムーズにできないのは論外です。
しかし、相手側の証人の尋問(反対尋問)はそう簡単にはいきません。相手側証人を予め打合せすることなく尋問して、こちらの思ったように証言してくれれば、万々歳ですが、そんなにうまくいきません。相手側証人も、敵の弁護士から尋問されるということで、構えてきますし、不利な証言をしまいと頑張ります。これに対し、矛盾等を突き如何に潰すかが弁護士の腕の見せ所となります。
反対尋問の仕方は、弁護士によって色々です。説教をしたり、感情的に相手側証人を責める尋問をする弁護士もいますが、私はあまり感心しません。私の目標とするところは、証人に気づかれないように外堀から順に内堀を埋めて、最終目的の尋問に迫り、こちらに有利な証言を引き出すことです。私の経験では、インテリの証人は意外と崩れやすいと言うことです。やはり、嘘を付くことに抵抗があり、理論的に責めるとその理論を理解できるだけに自分の証言の矛盾に気づき、ぼろを出しやすいのです。
又、反対尋問でどこまで突っ込んで聞くかも非常に難しく、いつも悩まされるところです。最終的にこのような答えを聞きたいと思い、責めていき、ゴールまで追い詰めたと思ったら、証人がそれに気付き、言い訳を反論されて、逆に相手側の有利な事実を固めてしまうことも良くあります。「しまった、聞かなければ良かった」と反省する瞬間です。「何も聞かないのが最大の反対尋問」とも言われる所以です。私の経験では、反対尋問は腹八分目で終えて、足らない部分は裁判官が聞いてくれてこちらに有利な事実を固めてもらうのが理想です。そして、反対尋問に成功しそれで勝訴判決を得れると、弁護士冥利に尽きると言う訳で、爽快な気分となるのです。
弁護士にとって、証人尋問は何年経験を積んでも緊張する手続きで、裁判の醍醐味でもあるのです。