これだけは知っておきたいインサイダー取引
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- 最近、経済産業省の元審議官に対するインサイダー取引疑惑が紙面を賑わせています。皆さんは、インサイダー取引と聞くと何を思い浮かべますか。上場会社の取締役や霞が関のお偉いさんがやるもので自分は関係ない、そう思ってはいませんか。それ、間違いです(某CM風)!インサイダー取引は、上場企業だけではなく、中小企業にお勤めの方々にも関係のあるものなのです。
- インサイダー取引は、金融商品取引法により規制されていますが、そもそもなぜ、規制されているのでしょうか。それは、会社の公表前の重要情報を入手しやすい立場にある内部者が、株式の価格を左右するような情報を知って株式等の取引を行うことは、一般の投資家からみて不公平であり、このような取引を放置すると、健全な投資家からの証券市場としての信用を失ってしまい、証券市場としての機能を失ってしまうおそれがあるからです。
インサイダー取引には、会社関係者等のインサイダー取引と公開買付者等関係者等によるインサイダー取引に大きく分けられますが、今回は前者に限定してお話いたします。
- インサイダー取引の骨格は、(1)会社関係者及び会社関係者から重要事実の伝達を受けた者が(主体)、(2)その会社の株価に重大な影響を与える重要事実を知って(前提条件)、(3)その重要事実が公表される前に(時期)、(4)株式等の特定有価証券等の売買等をすること(行為)と分けることができます。そして、形式的に一定の行為類型に該当すれば、動機・目的、利得の有無等を問うことなく、インサイダー取引に該当するのです。
- まず、インサイダー取引規制の対象((1)主体)ですが、「会社関係者」と「第一次情報受領者」に分けることができます。
会社関係者という文言からすると上場会社の役職員に限られるかのような印象を受けますが、上場会社と契約を締結している会社または締結交渉中の会社の役職員も含みます。つまり、上場会社と取引をしている中小企業の社員が、取引の過程で知り得た上場会社の情報を利用して株式取引を行うことも規制の対象範囲とされているのです。
そして、会社関係者の中には役員、従業員はもちろん、派遣社員、パートタイマー、アルバイトなども含まれることに注意が必要です。
さらに、これらの会社関係者から重要事実の伝達を受けた者を「第一次情報受領者」といい、同様に、規制の対象となります。
例えば、上場会社の役職員である友人から重要事実を飲み屋で聞いて知った者が行った株式取引や夫から重要事実を聞いた妻が行った株式取引も規制の対象範囲となるのです。
このように、インサイダー取引の主体は、上場会社の役職員だけに限られるものではなく、広く規制の対象となっていることに注意しなければなりません。
- インサイダー取引の前提条件((2)重要事実)について、法令で細かく規定されており、「決定事実」、「発生事実」、「決算情報」、「その他」に分類されます。
各事実について、詳細な数値基準が定められており、例えば、決定事実のうち、株式の募集であれば、募集払込金額の総額が1億円以上であることが定められています。
しかしながら、このような細かい基準を覚えることは大変ですので、まず、自己が知った情報が重要事実に該当するかどうかは、「通常の投資家が、その情報を知っていれば『売り』『買い』の投資判断を行うような重要な情報にあたるか否か」を検討することが肝要です。つまり、未公表の情報を聞いて株式等を売ろう、買おうと思ったら、まず、インサイダー取引を疑ってみてください。
- 重要事実の「公表」((3)時期)については、現状ではTDnetによる公開が一般的です。まずは、自己が得た情報がTDnet上で公開されているかどうか調べてみるとよいでしょう。
- インサイダー取引の客体となる特定有価証券等((4)行為)とは、株券、社債券、優先出資証券、新株予約権証券等を指し、一般的に問題となるのは株券です。
- さて、簡単にインサイダー取引について説明してきましたが、重要なことは、(1)インサイダー取引規制は上場会社に限るものではないこと、(2)ある情報を知って株式等の売買を行おうというインセンティブが働けば、インサイダー取引規制対象となる情報である可能性があること、の2点です。
インサイダー取引を行うと、個人として懲役刑、罰金などの厳しい刑事罰、課徴金が課されることはもちろんのこと、その個人を雇用している会社が、社会からの批判にさらされ、市場からの信頼を失うおそれがあり、また、内部統制違反として株主からの責任追及にさらされるおそれがあります。そのため、会社としても、社員がインサイダー取引を行わないようなしっかりした社内規程を整備し、社内教育を行い、インサイダー取引についての認識を深める必要があろうかと思います。