中国個人所得税法の改正(2019年)と外国籍従業員への課税について
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2018年8月31日に開催された第13期全人代常務委員会第5回会議において、個人所得税法の改正案(以下「改正法」といいます。)が審議、通過しました。2018年10月1日より、この改正法が一部先行して実施されていましたが、2019年1月1日より全面的に施行されましたので、このうち、出向者を含む外国籍従業員に影響する改正について、簡単にまとめてみたいと思います。
1 居住者と非居住者の区分
改正法においては、中国国内に住所がなくとも、一納税年度内(暦年1月1日から12月31日まで。以下同じ。)あたり183日以上中国国内に居住する個人は居住者とする、と変更され、原則として、この要件に該当する居住者(外国籍の居住者を含む。)は、全世界における所得を課税所得として、中国において納税義務を負うことになります。
ただ、改正法施行前においても、日本本社から中国現地法人への出向者については、日中間の租税条約において規定された183日ルールに従って納税義務を判定するのが一般的でした。今回の改正法の内容は、183日ルールという日中間の租税条約の要件と一致していますので、この点に関する改正が実務に及ぼす影響は大きくないと考えられます。
なお、中国国内に住所を有しない個人については、従来と同様に、改正法実施条例において定められた一定の要件を満たす場合、主管税務部門の批准を経た場合、中国国外の所得を免税とすることができる、とされておりますので、これらの要件に該当する場合は、これら規定を活用して、引き続き中国国内所得のみを中国において納税することも考えられます。
2 課税所得の分類の変更
改正法においては、居住者の所得について分離課税の種類が変更され、給与所得、役務報酬所得、原稿報酬所得及び特許権使用料所得の4種類については、合算した上で総合所得とする総合課税方式が適用されることになりました。
なお、非居住者個人の所得については、従来通り上記の各所得に対して分離課税方式が適用されます。
簡単に言うと、居住者は上記の各所得の合計額から基礎控除、専用費用控除及び専門費用付加控除を差し引いた額(※注)が課税所得額となり、非居住者は、給与所得から基礎控除を差し引いた額が個別に課税所得額となり、役務報酬所得、原稿報酬所得及び特許権使用料所得については、その実額(※注)がそれぞれ個別に課税所得額となります。
注)役務報酬所得、原稿報酬所得及び特許権使用料所得については一定のみなし費用控除が、原稿報酬所得については一定の割合による所得の減算が、居住者については一定の外国所得税額控除等が、それぞれ認められておりますが、本コラムでは割愛させていただいております。
3 給与等所得に関する税率の変更
改正法においては、個人所得税における超過累進課税の税率の適用範囲が下記の通り変更となりました。
納税所得額(月額) (※注) | 税率 |
3,000元を超えない部分 | 3% |
3,000元を超過し、12,000元を超えない部分 | 10% |
12,000元を超過し、25,000元を超えない部分 | 20% |
25,000元を超過し、35,000元を超えない部分 | 25% |
35,000元を超過し、55,000元を超えない部分 | 30% |
55,000元を超過し、80,000元を超えない部分 | 35% |
80,000元を超過する部分 | 45% |
注)改正法別表では納税所得額は年額での記載となっていますが、上記では改正法別表の記載を月額に換算しております。
4 基礎控除額の増額と専用付加費用控除の新設
上記2の課税所得分類の変更に伴い、基礎控除額が年額60,000元(月額5,000元)に変更されました。これに伴い、従来、外国籍従業員に認められていた月額1,300元の追加基礎控除額は廃止され、上記基礎控除額に統一されます。
また、居住者については、従来規定されていた社会保険(養老保険、医療保険、失業保険等)及び住宅積立金等を対象とする専門費用控除に加え、子女の教育費、継続教育費、重病医療費、住宅ローン利息又は住宅賃料等を対象とする専門付加費用控除の制度を新設し、一定の限度内において、これらの支出を所得から控除する制度が新設されました。
この点、従来、通達により、外国籍従業員に対しては、住宅手当、食事手当、引越手当、語学研修手当や子女教育手当等について、主管税務部門の批准を経た場合、合理的な部分については免税を受けることができるとされていました。本コラムの執筆時点においては、これらの優遇措置の全てについて明確に言及した通達等は発見できませんでしたが、今後、外国籍従業員に対する優遇措置は、順次廃止されることが予想されますので、引き続きフォローをしていくことが必要であると考えます。
以 上