地震に伴う雇用問題
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東北地方太平洋沖地震による被害は日ごとに拡大を続けており、日本全体に深刻な影響をもたらしています。阪神淡路大震災を経験した当事務所として顧問先の皆様に対して、出来る限り有益な情報を発信してまいりたいと考えています。そこで、今回は、地震に伴う様々な雇用問題についてご説明したいと思います。
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まず、震災を原因とした労働者の欠勤への対応について考えていきたいと思います。
このような労働者を解雇できるかどうかですが、原則として出来ません。震災は不可抗力であり、出勤しないことに労働者の過失はないからです。
ただし、震災により会社の一部事業所を閉鎖せざるを得なくなったり、資金繰りが悪化した場合には、解雇が許されることがあります。このような事情による解雇は、整理解雇と考えられますので、その有効性は
1.人員削減の必要性(経営不振・悪化など)
2.人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性
(配転、出向、一時帰休、希望退職の募集など解雇回避の努力を尽くしたか)
3.被解雇者選定の妥当性(客観的合理的な基準に基づき選定されているか)
4.手続の妥当性(労働者・労働組合との十分な話し合い、説明がなされたか)
という4つの要素を満たしているかどうかを考慮し、総合的に判断されることになります。解雇は極めて重大な処分ですし、特に、被災をした労働者が会社を解雇されると、生活を再建することが困難となりますから、解雇回避の努力や手続の妥当性が、十分に尽くされることは必要不可欠かと思います。
欠勤している労働者に対して給与を支払う必要があるかどうかについてですが、使用者には支払う義務はないと考えられています。また、休業手当についても「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合にのみ支払われると労働基準法26条で定められているので、震災が原因での休業については支払う義務はないと考えられています。
しかし、労働協約や労働契約で休業手当について、使用者有責の場合に限定せずに支払う旨の定めがあれば、休業手当を支払う必要があります。
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次に、震災を理由とした採用内定取消しについて、ご説明したいと思います。
震災により、一部事業所が損壊するなどして、採用内定者を採用するのが困難になった場合など、採用内定取消しが認められることがあります。
採用内定は通常、始期付解約権留保労働契約の成立であると考えられており、採用内定取消しが許されるかどうかはこの留保解約権の行使が適法かという問題に帰結します。留保解約権の行使について、判例は「解約留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができる場合に限られる」と判断しています(最二小判昭55・5・30判時968号114頁)。
この基準からすれば、内定取消しには客観的合理性が必要であり、今回の地震により、取引先が被害を受けて取引額が減少する恐れがあるというような抽象的事情だけでは足りず、採用内定取消しをせざるを得ないような客観的事情(例えば事業所の一部を閉鎖する場合や主要取引先が潰れて事業規模を縮小せざるを得ない場合等)が実際に生じていることが必要になると思われます。
なお、文部科学省と厚生労働省は、主要経済団体に対し、震災の影響を受けた新卒の大学生、高校生の採用について、(1)採用内定を出した学生・生徒等が、可能な限り入社できるよう努力する (2)被災地の学生・生徒等の入社予定日等について柔軟な対応を行うなどの要請をしておりますので、ご確認頂ければと思います(東北地方太平洋沖地震に係る主要経済団体等への大臣要請を踏まえた対応について)。
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以上の説明は、あくまで一般論であり、今回のような大規模災害においては、上記新卒採用者への配慮要請のように立法や行政による何らかの対応がなされることも予想されますのでその動向にも注意を払うことが必要です。
いずれにしても雇用に係る問題は労働者にとって、大きな影響を与えるものですから、迷われた時はお気軽に当事務所に相談して頂ければと思います。