土壌汚染対策法の改正
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- はじめに
平成15年2月、いわゆる典型7公害(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭)のうち、最後に残された土壌汚染に関する一般的な規制法として、土壌汚染対策法が施行されました。今般、同法が改正され、平成22年4月1日より改正法が施行されています。そこで、今回のトピックスでは、土壌汚染対策法および不動産取引と土壌汚染などについて、ごく簡単にですが取り上げてみたいと思います。
- 土壌汚染対策法の概要
土壌汚染対策法(以下、「土対法」といいます。)は、「土壌の特定有害物質による汚染の状況の把握に関する措置及びその汚染による人の健康に係る被害の防止に関する措置を定めること等により、土壌汚染対策の実施を図り、もって国民の健康を保護すること」を目的としています(土対法1条)。ここで「特定有害物質」とは、「鉛、砒素、トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるもの」(土対法2条1項)と規定されており、土壌汚染対策法施行令によって、鉛、カドミウムなど25物質が指定されています。
上記のような法の目的を実現するため、土対法は、行政による汚染土壌の把握および汚染の除去等の措置の実施について定めています。すなわち、(1)一定の場合に、その土地の所有者等に対し、土壌汚染の調査義務および調査結果の都道府県知事への報告義務を課し、(2)上記調査の結果、土対法の基準値を超過する土壌汚染が確認された場合には、「規制対象区域」(形質変更時要届出区域・要措置区域)として指定し、台帳を作成して公示するとともに、その後は、都道府県知事の指示内容に従って、汚染の除去あるいは封じ込め、立ち入り制限などの措置を行うこととなります。
- 土地所有者等の調査・報告義務
改正前の土対法では、以下の(1)、(2)の場合にのみ、その土地の所有者等に土壌汚染調査・報告義務を課していましたが、改正土対法では新たに(3)の場合にも、その土地の所有者等に対し、土壌汚染調査・報告義務が課されることとなりました。
(1) 有害物質使用特定施設を廃止したとき(土対法3条1項)
(2) 都道府県知事が土壌汚染により健康被害が生ずるおそれありと認めるとき(土対法5条1項)
(3) 3,000m²以上の土地を形質変更する場合で、都道府県知事が土壌汚染のおそれありと認めて調査・報告命令を出したとき(土対法4条2項)
改正前の土対法の運用状況をみると、上記(1)、(2)により調査が義務付けられる「法律調査」の割合は、実際に実施された土壌汚染調査のうちのわずか3%に過ぎず、土壌汚染調査の多くは、土地の所有者等による「自主調査」がほとんどでした。しかし、法律上の報告義務のない自主調査では、行政による汚染土壌の適切な把握・管理が困難であることから、改正法は新たに(3)の場合に調査・報告義務を課すことで、調査の契機を増やすこととしたものです。すなわち、一定の場合を除き、3,000m²以上の土地の掘削その他土地の形質変更をしようとする者は、形質変更着手の30日前までに、形質変更の場所、着手予定日等につき、都道府県知事に届出をしなければなりません(土対法4条1項)。そして、届出を受けた都道府県知事は、その土地が汚染されているおそれがあると認めるときは、土地所有者等に対し、その土地の土壌汚染の状況について、調査・報告するよう命令することができ(土対法4条2項)、同命令によって、土地所有者等は、調査・報告義務を課されることとなります。
- 汚染の除去等の措置
上記3の調査・報告の結果、土壌汚染が確認された場合には、都道府県知事が「規制対象区域」として指定し、その旨を公示します。改正法では、調査義務のない土地所有者等が自主調査によって土壌汚染を発見した場合に、自ら「規制対象区域」に指定するよう求めることができるようになりました(土対法14条)。もっとも、法的な届出や報告の義務はありません。
「規制対象区域」としては、(1)直ちに除去等の措置を要しない「形質変更時要届出区域」(土対法6条1項1号)と、(2)直ちに盛土、封じ込めなどの対策が必要な「要措置区域」(土対法6条1項1号、2号)があります。(2)の場合、必要となる土壌汚染対策は都道府県知事の指示に従って対策を行うこととなります(土対法7条1項)。汚染土壌の除去、土壌入れ替え、立入制限、盛土、舗装等、具体的な措置の方法は、汚染物質、汚染態様によって異なります。
汚染の拡散を防止するため、「規制対象区域」における土壌搬出には、事前届出、計画の変更命令等の規制も用意されています(土対法16条)。
- 不動産取引と土壌汚染
土壌汚染のおそれのある不動産取引に際しては、売主に対して土壌調査を依頼するとともに、売主の調査・土壌汚染対策に不備があった場合にはこれを瑕疵とみなす規定を盛り込むなど、瑕疵担保条項の設定等にも注意する必要があります。
それでもなお、土地購入後に土壌汚染等が発見された場合には、売主に対する(1)瑕疵担保責任の追及、(2)説明義務・調査除去義務違反による債務不履行責任の追及、(3)不法行為責任の追及などが考えられます。
- 土壌汚染が発見された場合の企業の対応
土対法について誤解の多い点は、土壌汚染が見つかれば必ず何らかの対策を実施しなければならないと理解されている点です。土壌汚染が発見されても、人に健康被害が生ずるおそれがないと認められるときは、対策が不要とされる場合もありえます。当事者同士の対策では不十分とされる場合もありうることから、土壌汚染が発見された場合には地方自治体に相談し、自治体とともに対応を検討することが重要であろうと考えます。