第4回 12人の怒れる男
執筆者
法廷ものの映画としては,古典中の古典。ですので,私がいまさらご紹介しても・・・とも思いますが,日本でも裁判員制度が開始されたばかりのタイムリーな時期ですので,あえてご紹介させていただきます。
スラム街でおきた殺人事件の陪審員として選ばれた12人の男達が,被告人として起訴された被害者の息子が真犯人かどうかについて,喧々諤々の議論を交わし,当初は有罪でほぼ決まりかけていた議論がいつしか・・・といった感じのストーリー。評議室を舞台にした密室劇に近い映画ですので,個性豊かな俳優陣の渋くてくせのある演技が存分に楽しめます。
日本の裁判員制度とアメリカの典型的な刑事陪審制度(アメリカは州によって制度にもバリエーションがあります。)とは,かなり異なる点があります。大きな違いは,(1)日本では裁判官3人,裁判員(法律家でない人)6人,合計9人の多数決(ただし,有罪評決を下すには,少なくとも裁判官1人が多数派に入っている必要があります。)が原則であるのに対し,アメリカでは陪審員(法律家でない人)12人の全員一致が原則であること,(2)日本では,量刑についても裁判員が判断に参加することになりますが,アメリカの陪審員は原則として「有罪」か「無罪」かの評決をするのみであること等です。
とはいえ,「刑事裁判の判断に法律家でない市民が参加する」という点では共通しています。さまざまな価値観やバックボーンをもった人達が,それぞれの観点から議論に参加して事件に迫り,常識的かつ合理的な判断を導くというのが,日本の裁判員制度,アメリカの刑事陪審制双方に期待された役割であることは,間違いないところかと思います。その意味で,「12人の怒れる男」では,それぞれの陪審員がそれぞれの経験や観点から意見を述べ,最終的な結論に結実しており,法律家でない市民が刑事裁判に参加する制度の理想形が示されているように感じます。
裁判員になってみたいと思っていらっしゃる方も,選ばれると困ると思っていらっしゃる方も,一度ご覧になっていただけると幸いです。
なお,この映画をもとにした作品として,三谷幸喜監督の「12人の優しい日本人」という映画もあります。こちらも面白い作品ですので,ぜひ。