第15回 ワーク・ライフ・バランスの中身
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- 数年前から「ワーク・ライフ・バランス」という言葉をよく見聞きします。直訳すれば,「仕事と生活の調和」ということですが,この言葉を見聞きするたびに,実にさまざまな文脈で使われているため,わかったようなわからないような気持ちになっていたので,今回,少しその中身について調べてみました。
- 2007年12月,経済界,労働界,地方公共団体の代表者,有識者,関係閣僚等により構成される「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)推進官民トップ会議」において,「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」と「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が策定されています。
「憲章」においては,「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き,仕事上の責任を果たすとともに,家庭や地域生活などにおいても,子育て期,中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」を目指すとされ,具体的な中身として,(1)就労による経済的自立が可能な社会,(2)健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会,(3)多様な働き方・生き方が選択できる社会の実現が目標とされています。そして,「行動指針」では,「憲章」で定めた目標の実現のため,企業と働く者,国民,国・地方公共団体が果たすべき役割を定めるとともに,(1)〜(3)の社会実現のために必要な措置について,ある程度具体的な数値目標が掲げられています。(1)については,女性や高齢者の就業率の上昇,フリーターの数の減少,(2)週労働時間60時間以上の雇用者の割合の減少,年次有給休暇取得率の上昇,(3)については,第1子出産前後の女性の継続就業率の上昇,育児休業取得率(男女とも)の上昇等が代表例です。
- このように,「ワーク・ライフ・バランス」というのは非常に幅の広い概念ですが,一番根本にある考え方は,「それぞれの人が立場や状況に応じて望ましい働き方を選択できる・選択しやすい社会」を目指すということだと思います。「ワーク」と「ライフ」の望ましいバランスというのは,人それぞれだと思われますが,そのバランスのとり方について,さまざまな選択肢をとりうる制度や風土をつくっていくことが目標とされているわけです。
これを企業の側から見ると,社員がそれぞれの立場や状況に応じたワークスタイル・ライフスタイルを選択できるような人事管理体制を整備することにより,結果的には生産性・競争力の向上や企業の社会的イメージの向上につながるというメリットがあるとされています。
- 上記の「憲章」や「行動指針」は,拘束力があるものではありませんが,ワーク・ライフ・バランスの考え方を背景にした労働基準法や育児介護休業法の改正が徐々に進みつつありますし,社内でワーク・ライフ・バランスに関するワーキンググループをつくるなどして,積極的な取組みを行っている企業もあるようです。
もちろん,企業として,多様な働き方を選択できる体制や風土を整備し,それぞれの社員がメリハリのある働き方ができるようになって,結果的に時間生産性や競争力が向上することは非常に望ましいことですし,企業の社会的責任(CSR)の観点からも,「働きやすい職場づくり」の要請が高まっているのが現状だと思われます。ただ,ワーク・ライフ・バランス支援のための取組みが悪い意味での「何でもあり」の状況を産み出してしまい,結果として生産性の低下や社員のモラルの低下につながってしまう懸念もあり,ワーク・ライフ・バランスに目配りをした人事管理というのは,企業にとって難しい問題を含んでいるのではないかというのが率直な印象です。
- ワーク・ライフ・バランスの推進は時代のトレンドでもありますので,今後は弁護士の立場からも,「ワーク・ライフ・バランスの観点からすると…」といったようなアドバイスが必要な機会が出てくるかもしれません。今後の動向についても,引き続き注目していきたいと思っています。
なお,内閣府・仕事と生活の調和推進室が,ワーク・ライフ・バランスの意義や企業の取組み,ワーク・ライフ・バランス支援のための制度導入の際の注意点等について詳しくまとめたホームページ(http://www8.cao.go.jp/wlb/index.html)を作成していますので,興味をもたれた方は,ぜひご覧になってみてください。