第18回 裁判外紛争解決手続(ADR)について
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裁判外紛争解決手続(ADR)とは
最近,報道等において,事業再生ADRという言葉をよく耳にします。
ADRとは,Alternative Dispute Resolutionの略で,「裁判外紛争解決手続」と訳されます。その名のとおり,訴訟や調停といった裁判所の関与する手続によらない紛争解決の手段を指す言葉として用いられます。ADRを実施する機関は,弁護士会,司法書士会,土地家屋調査士会など様々であり,一般には,これらの専門家や第三者が,中立的な立場で紛争当事者の間に入り,当事者の意思に基づいた紛争の自律的解決をサポートする形で手続が進められます。
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ADRのメリット
訴訟は,最終的には,裁判官による権威的判断によって紛争を解決するためのシステムです。訴訟手続は複雑かつ専門的であり,一般の方には利用しにくい面があったり,また場合によっては多額の費用と膨大な時間がかかったりするなど,紛争解決の手段として必ずしも利用者のニーズに合致しているとは限りません。そのため,裁判所の関与する手続の中にも,迅速かつ低廉な費用による簡易な裁判手続が用意されています(詳しくは,第8回コラムをご参照ください。)。
もっとも,このような簡易な裁判手続においても,裁判所の関与がある以上,どうしても権威的な解決手段であるとの印象は拭えません。裁判員裁判制度のスタートやテレビ番組への弁護士の露出が増えたことなどもあって,司法に対する国民のイメージはかなり変わってきていることとは思いますが,それでも,裁判所の利用に抵抗を感じる方はまだまだ多いのが実情ではないでしょうか。
ADRは,このような裁判手続と異なり,冒頭に述べたとおり,裁判所の関与なしに紛争当事者や利害関係人の意思に基づいた紛争の自律的解決を目指すものであり,そのため,裁判手続における権威的な解決とは異なる解決,換言すると「All or Nothing」ではない解決を図ることが期待できます。このような柔軟な解決の実現こそが,ADRの最大のメリットであり,本質でもあります。加えて,手続のわかりやすさ,迅速性,低廉性,効率性等のメリットもあります。
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ADRの利用促進
ADRの利用促進を図るため,平成19年4月1日,「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(ADR法)が施行されました。
ADR法の施行により,法務大臣から認証を受けたADR機関の実施するADRについては,時効中断の効力や調停前置に関する特例といった法的な効果が認められるようになり,ますます利用しやすいものとなっています。
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おわりに
以上のとおり,法的紛争が生じた場合の解決手段にも様々なものが用意されています。これらの解決手段のメニューの中から,当該紛争の実情に即した解決を得るためにもっとも適切な手段をアドバイスすることも弁護士の重要な仕事のひとつです