第61回 酔ってケンカ −喧嘩両成敗−
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夏が近づき,ビールの美味しい季節になってきました。筆者は決してお酒に強くはないのですが,それでもこの季節最初のひと口は格別な気がします。残念なことに,花の金曜日も終電近くまで仕事をし,疲れてしらふのまま帰宅の途につくことが多いのですが,特に終電に近い週末の駅構内は飲んで帰るビジネスマン等に溢れ,酔っ払って楽しそうに談笑する方々を羨ましく横目に見ながら帰宅することもしばしばです。
ただ,酔って周囲への配慮を欠いたり,気が大きくなっていたりすると,些細なことからトラブルになってしまうこともあります。先日も帰宅途中に駅構内で酔った乗客同士が大声を出してケンカをしているところを目撃しました。駅の係員等が間に入り,止めていましたので,殴り合いのケンカにまでは発展しませんでしたが,一歩間違って相手にけがを負わせたりすると,たとえそれが売られたケンカであっても罪に問われる可能性があり,注意が必要です。
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一般的には,ケンカの責任について,どちらが悪いかというような評価をしがちですが,法的にはケンカの当事者である双方に非があるものとして,双方ともが刑事処罰の対象になり得ます。殴りかかったり,殴りかかられたから反撃に出たりした場合,当該行為には暴行罪が成立しうることとなりますし,それによって相手にけがを負わせればより刑の重い傷害罪が成立しうることとなります。先に手を出してきたのが相手のほうであったとしても,それに応戦することが直ちに正当防衛として法的に正当化されることにはなりません。
先に手を出したほうが悪いとか,相手により重いけがを負わせたほうが悪いとかいうことで罪に問われる当事者が決まるのではなく,原則として喧嘩両成敗ということです。ケンカ当事者の一方のみが処罰されるのは,後記の事情等を考慮のうえ,他方が処罰に値するほど悪質ではないとして不起訴処分が相当であると判断された場合などに限られます。
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警察や検察といった捜査機関における実際の事件処理においては,ケンカに至る経緯,暴行の態様,けがの程度や反省の態度といった事情を考慮して,ケンカの当事者双方に対する厳重注意程度にとどめたり,あるいは不起訴処分としたりするケースも多いので,ケンカのすべてが刑事裁判の対象となるわけではありません。
しかし,酔ったときのケンカで多いのが,駆け付けた警察官に対しても,小突いたり,物を投げつけたりといった暴行を加えてしまうケースです。この場合,公務執行妨害罪が成立し,不起訴処分等ではなく,公判請求されてしまう可能性が高くなりますので注意が必要です。
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これからの季節,ビールを飲む機会も増えると思いますが,お酒に飲まれてハメを外しすぎると思わぬトラブルに巻き込まれないとも限りません。自分をコントロールできる適当な範囲でお酒を楽しむように心掛けたいものです。