第108回 法律事務所今昔物語
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ご存知の方も多いと思いますが、判決を含め裁判文書は、A4判横書き、12ポイント、1行37字、1頁26行と決まっています。
実はこの取扱いが決まったのは平成13年で、つまり今から11年前までは、B4判縦書きの袋とじとなっていたそうです。表の面はB5判ですので、1頁あたりの文字数も少なくなりますし、何よりもB4判の準備書面を真ん中で折るのは大変な作業だったと聞いています。また、1枚ごとに次の頁と契印(割印)を押さなければならず、大量の書面ですと、めまいがしそうになったそうです。
平成13年に縦書きから横書きになった際、句読点は「、」(てん)から「,」(コンマ)に変更されました。実は公用文作成要領(昭和27年4月4日付け内閣官房長官依命通知)というのがありまして、横書きの公用文では句読点は「、」ではなくて「,」を使いなさいと決められています。ところが、昭和27年からすでに50年以上たっているのですが、文部科学省でも官報でも「、」が使われていて、統一されていません。各省庁のホームページ内の文章を見てみますと、文部科学省・国土交通省・総務省・外務省・厚生労働省・経済産業省・財務省・農林水産省・環境省・防衛省・内閣府は「てん」、法務省、検察庁、最高裁判所は「コンマ」となっているようです。裁判所が今も昭和27年の通知にこだわっているのは、「決まったことは守ろう」というメッセージなのかもしれません。
話が横にそれてしまいましたが、裁判所が明治の昔から100年以上使い続けてきたB4判縦書きを捨ててA4判横書きに替えたのは、ものすごい決断だったと思います。もしかすると、21世紀になったので、ついでに横書きに替えようと、誰か偉い人が言い出しただけなのかもしれませんが・・・。
横書きになったことにより、文中に図表などを挿入しやすくなり、書面のビジュアル化が進みました。文章で説明するよりも、図表にしただけで、頭の整理になりますし、何となく分かったような気分にもなります。最近では、簡易裁判所の判決などでは、「□」に「レ」点を付けて、まるでアンケートの回答用紙のような体裁をとっているものもあります。
今後は、ますます書面のフォーマット化が進んで、裁判所のセキュリティ体制が完備されれば、ペーパーレス(オンライン)訴訟の時代が来るのも近いと思います。現に民訴法132条の10は、「電子情報処理組織による申立て等」を規定していますが、採用されている裁判所はごく一部であり、オンライン提出可能な書面の種類も限定されています。近い将来、完全なペーパーレスが実現されれば、B4判とかA4判とかは遠い昔の話になり、「準備書面」という言葉自体もなくなるかもしれません。でも、パソコンでメールを開いたら、いきなり「被告人を懲役5年に処す」というような画面が現れるというのは、いささか心臓に悪いような気がします。